本年度は、安東省菴編『啓蒙難解』巻之下について出典及び構成配列を明らかにし、その思想内容を検討した。巻之下は、『易学啓蒙』明蓍策第三・考変占第四についての注釈集であり、省菴は本文を33章に分けてそれぞれに解説を付しているが、その解説は巻之上・巻之中と同様、『易学啓蒙補要解』『啓蒙伝疑』『周易全書(周易古今文全書)』からの引用がほとんどであった。以上の成果については、「朱熹『易学啓蒙』研究序説(3)~安東省菴の研究~」(『東洋学研究』第54号)として報告を行った。 本年度前半には、『啓蒙難解』全巻(上中下)の検討を終えたため、後半から思想内容の具体的な検討に入った。先ず、初年度に検討した『啓蒙難解』巻之上を参考にしながら、朱熹の「河図洛書」論(『易学啓蒙』本図書第一)の分析を行った。また朱熹の『易学啓蒙』作成の意図を明らかにするため、『朱子文集』(巻三十八「答袁機仲」を中心に)・『朱子語類』(巻第六十五・六十六・六十七他)『周易本義』を検討した。さらに、清代の『河図洛書原舛編』(毛奇齢)『易学象数論』(黄宗羲)『図学弁惑』(高宗炎)『易図明弁』(胡渭)等も併せて検討し、朱熹の象数易学研究のいかなる点が問題であり、批判の対象となったのかを考察した。以上の成果については、その一部を、「朱熹の「河図洛書」解釈-『易学啓蒙』「本図書第一」の分析-」(『白山中国学』通巻23号)として発表したが、次年度以降もその続編を掲載していく予定である。また第65回九州中国学会(平成29年5月14日、於佐賀大学)での発表も予定している。 なお、当初計画していた『啓蒙難解』の翻刻であるが、上記のように研究対象を大きく広げていったために時間を割くことができず、本年度はほとんど進めることができなかった。
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