研究実績の概要 |
すでに昨年度、本課題のために支給される科研費を使い切っているため、研究費に基づく研究はおこなえていない。文献に基づく清朝道教の研究を行ったのみである。ひとつは、清朝道教における改革者として知られる王常月(1594-1680?)とその弟子たちによる清朝期における道教戒律(初真戒)の復興について、従来の私自身の議論を整理しつつ新たな結論を導いた。王常月が清朝初期に復興したとされる戒については、王常月以降の全真教徒によってそれが蒙古朝期の丘処機の戒律の復興であるという見方がなされてきたが、それが事実に基づくものではないことは私も含め従来の研究によって指摘されてきた。しかし、王常月による清初の戒律伝授が結局のところいかなる意味をもつのかという点については、従来必ずしも充分な説明がなされないか、学者によっては清初における王常月の戒律伝授自体が虚構であるとする立場をとる者すらある。そこで、本年度の研究では、王常月による戒律伝授が歴史的な事実として認定できる新資料を示し、さらにその意義が、従来考えられたように丘処機以来の全真教の戒律を復興したという点に存するのではなく、明代以来の、全真・正一双方の道士に対して授与されてきた出家戒の伝統を再興したという点にあることを示した。王常月を単に全真教の歴史の中でとらえるのではなく、道教全体の歴史の中で考えるという視点を示した。その成果は、Yuria MORI, "Tracing Back Wang Changyue's Precepts for Novices" in Daoism: Religion, History and Society, No. 8, 2016, 207-249に発表した。もうひとつの主要な研究対象は、清朝17世紀後半に生きた内丹道士で、龍門派の系譜にも与かる朱元育(朱玄育)の煉丹理論である。これについては「朱元育『参同契闡幽』の内丹法について」と題して2017年1月28日道教文化研究会で報告し、現在論文執筆に向けて研究を継続中である。
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