明治十年代に清国公使黎庶昌および公使館随員の楊守敬が東京で刊行した『古逸叢書』は、近代以降における中国古典籍の影印叢書の先駆的な存在であり、そのテキストは現在においてもなお、古典籍の校勘・翻刻の際の底本および校本として利用されている。しかしながらその編纂・出版の過程、所収の各書の底本やテキストの性質に関しては、十分な研究がなされてはいない。本研究は文献学の方法を用いることによってこれらの問題を考察し、その編纂・出版における日本人学者・印刷業者との交流、校訂作業の手法、編纂・校勘の際に使用された底本・校本、さらには刊刻・印刷の際の技術的な特徴などについて系統的に考察・分析を行い、その本文の性質を正確に把握し、この近代における古典籍研究史上の一大懸案の解明を目指すものである。 平成29年度においては、平成28年度に完成できなかった版木に関する調査を行った。版木の状況から初印本と補修本、後印本との異同の分析を行い、それに基づいた研究成果を現在まとめているところである。また、前年度に引き続いて、『古逸叢書』所収の各書のテキストの校合作業を行い、現在においては、今までの作業の結果分析を行っている。これらの研究によって、『古逸叢書』の底本や校本および校勘作業の過程に関して、多くの新たな知見を獲得することができた。今後の予定としては、研究成果を学術論文としてまとめ、学術雑誌に投稿するという形によって、国内外の諸学会に対して、日中両国語によって発信を行っていく予定である。
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