研究課題/領域番号 |
26370053
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大島 智靖 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (60626878)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インド哲学 / ヴェーダ / 儀礼 / クシャトリヤ / ディークシャー / 婆羅門/バラモン / ソーマ祭 / ラージャスーヤ |
研究実績の概要 |
〔平成27年度の実施内容〕 昨年度と同様に、古代インドの儀礼と意義解釈を伝えるブラーフマナ文献群の解読を主な作業として、それによってソーマ祭のイニシエーョン儀礼となるディークシャー(いわゆる精進潔斎)の再構築と、そこに見出される死生観の分析を進めた。本年度は王族が祭主となる祭式を中心にして、そのような場合のディークシャーにいかなる特徴があるかを分析した。その成果を、2015年6月28日‐7月2日にわたって開催された第16回国際サンスクリット学会―バンコク(タイ)において“On the Role of Brahmana and Rajanya in Kingship Rituals”と題して発表した。 また、同年9月19日‐20日に開催された印度学仏教学会第66回学術大会―高野山大学(和歌山県・伊都郡)において「王権即位式と婆羅門」と題し、発表した。本発表は「王権即位式と婆羅門―王族祭主とソーマ祭―」として『印度學佛教學研究』第64巻第1号267-272(253-258)頁に掲載された。 〔成果の意義〕 祭式を掌握する婆羅門と、祭主となる王族との間にはいわゆる「聖と俗」とも言うべき宗教的立場の区別がある。儀礼執行すなわち神々との交流中、婆羅門は王族に自らと同等の婆羅門〔格〕を一時的に賦与することによって神的存在と為し、儀礼終了時には再び「俗」人へと戻す、という概念を適用することによって、婆羅門を頂点とする祭式世界のヒエラルキーを保ちつつ、王族を収入源として祭式に取り込もうとする戦略を取った。ブラーフマナにおける該当記述を収集・分析することにより、両者の対立と妥協及び協調の様相が明らかになるとともに、ここにおいて本研究課題のテーマであるディークシャーが重要な役割を果たしている点が理解されなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題である「儀礼解釈学に表れる死生観」そのものに関しては、古代文献学的アプローチによる作業が進んでおり、概ね順調であると言える。しかしそれと両翼を為す「現代インド都市部におけるヴェーダ祭式」に関して、今年度は遅延を余儀なくされた。昨年度のプネーにおけるフィールド調査において、プネー在住の婆羅門ファミリーであるクルカルニ家からヴァージャペーヤと呼ばれる大規模ソーマ祭の開催予定の情報を入手したが、この祭式は決定から開催まで6ヵ月を要する。不運にも昨年9月の段階で先方より延期の報せを受け、昨年度中に開催される見込みがなくなった。従ってプネーにおけるフィールド調査の機会を延期せざるを得なくなったため、「遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ヴェーダ文献による基盤的研究についてはこれまで通り遂行していくことで当初の目標をほぼ達成できると考えるが、一方のフィールド調査についてはさらなる工夫が必要である。第一に、先方への連絡を増やし、情報入手に漏れが無いようにすること。昨年延期に至ったヴァージャペーヤについては今年度開催される可能性は大いにあるため、機会を逃さないよう細心の注意を払い、場合によってはそれ以外の大規模祭式の情報を得るかもしれないので、プネー周辺の事情に十分配慮する。万一今年度そのような機会に一切恵まれなかった場合、アグニホートラ、祖先供養、葬送儀礼、及び新満月祭等の通常儀礼に焦点を変え、それらの実態を記録することによって死生観の一端を知ることができる。そういった事情に関わらず、特にヴェーダの葬送儀礼を調査する機会があれば大きな成果を期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
プネーにおけるヴァージャペーヤ開催予定が無期延期されたことにより、プネーへのフィールド調査が延期された。従って旅費滞在費及びそれに関連する費用の大部分が使用されないままとなった。それに伴い、調査において使用する予定の録画記録機材一式の購入も控えた。それゆえ次年度使用額が生じた次第である。
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次年度使用額の使用計画 |
プネーにおけるフィールド調査のための旅費・滞在費に使用する。また、そのための録画記録機材購入も実行する。
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