ラグナータ著『定動詞語尾論』は11部分よりなるが、最終年度は第1部分から第4部分までを英語翻訳し、ラーマバドラの註とマトゥラーナータの註を参照して英語による解説も施し、論文として出版した。その中で、彼がミーマーンサー学派の主張を想定して議論を進め、定動詞語尾の意味を、能動態と受動態の違いにかかわらず努力とした、という点を突き止めた。これにより、新ニヤーヤ学派の体系を確立した14世紀のガンゲーシャの主張は既に解明されているので、彼と16世紀のラグナータとの主張との比較が可能となった。ラグナータの理論はガンゲーシャのそれと比べて、定動詞語尾の意味の種類の数を減らしている点で、より簡潔性を求めたと結論づけられる。 『定動詞語尾論』の第9部分で動詞語根の意味も議論され、ガンゲーシャ著『タットヴァ・チンターマニ』(真理考究宝)「動詞語根章」の主張を前提としていると思われる。この章の分析が海外の学術誌に掲載された。ガンゲーシャは語根の意味に「結果生み出す活動」あるいは「活動」との二種を認めたが、ラグナータは「結果生み出す活動」のみを認めるという相違が明らかとなった。後の綱要書を見る限り、いずれかの説が伝統説として固定されることはなかった。 また、ラグナータの重要な作品の内の一つである『否定辞論』(Nan-vada)と近い内容を持つ、否定辞論頌『否定辞論頌』(Nan-vada-karika)の前後関係について、本研究者と共同研究者とはかつて後者から前者が作成されたという見解を示したが、本研究者は調査を続けた結果、前者から後者が作成された可能性が高いという結論に達した。この結論を主張する論攷は既に入構済みであり校了したが、刊行は今年度末に間に合わなかった。
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