(I) 26年度、27年度に引き続き《八千頌般若》十二種のテキストを対照した『《八千頌般若》諸本対照』を作成し、ほぼ九割方完成した。漢訳七種、すなわち『道行般若経』(西暦179年訳)、支謙訳(222-257年訳)、『摩訶般若鈔経』(3世紀後半訳)、鳩摩羅什訳(408年訳)、玄奘訳第五会(660-663年訳)、玄奘訳第四会(660-663年訳)、施護訳(982年訳)、ガンダーラ語写本・梵本・チベット訳・英訳を対照した。ただチベット訳は、作業の途中で、写本に二つの系統があることが分かり、当初の予定より作業が複雑になった。いずれにせよ数年内に完成し、公表したい。厖大なデータであるので、紙として出版するには困難を伴うが、電子媒体など何らかの形で公開しようと考えている。 (II) 支謙訳『大明度無極経』(西暦222-257年訳)の詞典の作成も続けた。まだ完成には至っていないが、出版するめどはたった。 (III) ガンダーラ語《般若経》断簡の英訳作業もほぼ終了した。2018年3月までに語彙表を作成して、英訳とともに出版する予定である。 (IV) 上記の成果を使って、28年度に中国人民大学など中国の幾つかの大学・研究所で連続講演・講義を行った。
《八千頌般若》は大乗仏典の基本テキストであり、この経典の生成・発展・変遷を明らかにすることは、大乗仏教の生成・発展・変遷を明らかにすることになる。上記の研究成果をすみやかに出版して、広く学界に寄与したいと考えている。また《大品般若》は文字通り大部の《般若経》であり、《八千頌般若》を増広したものである。将来的には、二つの経典の言語・用語・思想の何が連続し、何が変遷しているかを、文献学的に明らかにしようと考えている。
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