研究課題/領域番号 |
26370057
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研究機関 | 身延山大学 |
研究代表者 |
槇殿 伴子 身延山大学, 東洋文化研究所, 研究員 (40720751)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | チベット仏教 / 大中観 / 他空説 / ゲツェ・マハーパンディタ / コントゥル・ロジュ・タイェ / 如来蔵思想 / 三法輪 / 瑜伽行 |
研究実績の概要 |
本研究者の研究課題である「チベット仏教における大中観他空説の思想基盤に関する研究」における本年度の研究成果として、学会発表と論文刊行がある。学会発表については、8月30日と31日に武蔵野大学有明キャンパスで開催された日本印度学仏教学会において研究成果の発表を行った。31日に行った「コントゥルの大中観他空説手引き」と題する発表では、チベット仏教カギュ派のコントゥル・ロジュ・タイェの著作を取り上げ、彼の大中観他空説の理論と実践について紹介した。彼は19世紀に生存し、彼の学説は今日においてもカギュ派を代表するものとして認識されており、さらに、この著書の中で、彼は大中観他空を自ら表明し、著作の中でターラナータとドルポパの言述を論証として用いていることからも、大中観他空の明瞭な典籍であり、とくに、大中観他空の中核を為す如来蔵思想を顕教と密教の両者によって説き明かしているため、研究書として有意義である。同発表は『印度学仏教学研究』第63巻第2号において刊行された。31日には『法華経』に関するパネルにおいて「チベット仏教における『法華経』の用法:観音信仰と一乗思想」と題する発表を行った。この発表では、『摩尼十万語』というチベットの埋蔵経典とゲツェ・マハーパンディタの著作を取りあげ、前者においては『法華経』が観音信仰のために、後者では一乗思想のために用いられているということを指摘した。特に、研究者は自身の博士論文においてゲツェ・マハーパンディタの大中観他空説について研究しており、彼の一乗思想は、究極的には彼の大中観他空説と一致するため、彼の著作と彼の思想をさらに追求することには意義があるものである。同発表は、2015年に刊行予定の『身延山大学所報』に収録される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時に記載した研究目的は以下である:「本研究は、チベット仏教の「大中観他空説」の思想を解明することである。その具体的調査対象として、ジョナン派のドルポパシェーラプギェルツェン(1292–1361)とターラナータ(1575–1634)及びニンマ派のゲツェマハーパンディタ(1761–1829)の著作を取り上げ、大中観他空説の特徴的思想を明らかにする。具体的には、以下の三点を考察する。(1) 彼らの著作に用いられる大中観他空説の特徴的思想と語彙を明らかにし、彼らの著作に引用される経典の他空的解釈を、規範的中観派(すなわちrang stong)の解釈と比較検討する。(2) 瑜伽行唯識思想と混同され、糾弾される彼らの思想を、彼ら自体がどのように差別化し、違いを証明しようとしているのかを検討する。(3)「大中観」の持つ意味を明らかにし、インド仏教中観派のチベットでの受容と展開を考察する。」 一点目に関しては、研究課題を遂行するため、具体的研究対象の変更を行った。当該年には、上記の研究成果に記したように、コントゥルの著作とゲツェマハーパンディタの著作を用い、ドルポパとターラナータについては、コントゥルの著作の中に言及される引用箇所を指摘したに留まった。しかし、この改良によって、二点目と三点目については、コントゥルの著作の研究によって、明瞭にかつ簡明に示された。コントゥルは三法輪から説き始め、インドの唯識派と中観派を含める仏教学派と彼らの誤りについて説明した。さらに彼の大中観他空説が『宝性論』のマイトリーパの解釈を伝承から始まり、コントゥルに至るまでの大中観他空説の系譜を述べる。 特に引用文献には『宝性論』が多用され、同論書の大中観他空的解釈を知るためにも貴重な資料を提供している。具体的な著作に改良改善を施すことによって、より良い研究成果がもたらされた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究者は本研究課題である「チベット仏教における大中観他空説の思想基盤に関する研究」を遂行するため、今後、その推進方策に改良を加えつつ、進めていく。この改良は、ネパールでの現地調査などからもたらされる新たな文献資料を付加することによって為される。申請時には具体的な調査対象として、ジョナン派のドルポパやターラナータなどの著作に限定していたが、今後は、サキャ派、ニンマ派、カギュ派など、チベット仏教の学派全般に渡り、大中観他空説派と他空説に関する新たな文献資料を紹介していく方向で研究を進めていく。ドルポパやターラナータは大中観他空説派として遍く知られているが、ゲツェマハーパンディタやコントゥルなどについては彼らの特徴的思想である大中観他空説派としての側面は、未だに知られていないのが現状である。平成14年度において、コントゥルの著作である『中観他空説手引き』の読解を通して、インド伝来の仏教としての大中観他空説のチベットでの位置づけについて考察したが、さらに、彼の『勝義大中観に対する誤謬の払拭』や、ゲルク派のジャッカルロプサンパルデン著の『自空他空の見解の違い』と題する著作の読解を試みる。これらの著作は未だ紹介されたことがなく、このように、未知の資料を付加していくことは、 学術的に意義あうる貢献となる。さらに、この申請時に記載した通り、ネパール現地調査を継続的に行う。この現地調査は資料探索と資料収集のために必須であり、かつ、資料解析ど読解のために、チベット仏教カギュ派寺院における大中観他空を専門とする総院長から研鑽を受けるためである。この研鑽は当該年度も実施したが、当該年度の実質経費に鑑みて、研究費の物品費と旅費の割合に補正をし、旅費を引き下げ、物品費の割合を引き上げる。この旅費の修正は格安航空会社の使用により、かつ、図書、資料購入費の増大による。
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