研究課題/領域番号 |
26370057
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研究機関 | 身延山大学 |
研究代表者 |
槇殿 伴子 身延山大学, 東洋文化研究所, 研究員 (40720751)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大中観他空説 / ゲツェ・マハーパンディタ / コンチュル / ターラナータ / 第三法輪 / 密教 |
研究実績の概要 |
1.平成27年度の研究実績は、(1)ネパールにおける現地調査と(2)学会における発表、並びに(3)論文刊行の三点から成る。まず、平成27年4月に行ったネパールにおける現地調査において、カギュ派のチベット仏教寺院で行われたセミナーに参加し、大中観他空派の故ケンポー・カンシャルの著作についての解説を聴講した。さらに、チャング寺院のケンポー・カルマ・ゲンドウンに大中観他空説に関するテキスト講読の個人授業を依頼し、ターラナータとコンチュルの著作を講読し、解説を受けた。学会発表については、高野山大学で行われた第66回印度學佛教学会で「ゲツェ・マハーパンディタによる「サムイェの宗論」論考」と題する論考を発表した。この中で、本研究者はニンマ派ゲツェ・マハーパンディタの著作である『三戒区分註』を取り上げた。彼の特徴的思想は大中観他空説であり、彼は、『三戒区分註』においても、大中観他空説を展開する。同発表では彼が他空説を基盤に据えて、「宗論」をめぐる中国禅とニンマ派批判に対する彼の反論を明らかにした。この研究発表は、『印度學佛教學研究第64巻』にて刊行された。さらに、身延山大学東洋文化研究所『所報』から「チベットにおける『法華経』の用法:観音信仰と一乗思想」と題する論文を刊行した。この論文は、平成26年度の研究業績の一部である、武蔵野大学有明キャンパスで行われた第65回印度學佛教学会におけるパネル発表を論文として出版したものである。さらに、Indian International Journal of Buddhist Studies vol. 16 から “Kong sprul on the Great Madhyamaka of Other-Emptiness: Theory and Practice”を出版した。 これは第65回印度學佛教学会の個人発表で行った研究成果の英文論文である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究者は、申請時における研究計画・目的に、「本研究は文献学的考証と現地調査の二つの方法論を同時に組み合わせて行うことを目的としている。すなわち、(1) 厳密な文献学的考証に基づき、 翻訳作業に当たっては、批判的校訂テキストの作成を行い、引用文献の識別を行う。 (2) チベット仏教は、現存の宗教であるという事実に基づき、本件の申請者は、自身の博士論文執筆の際、 チベットの仏教寺院の大学で教鞭を取っている僧侶に教えを受け、質問し、その教義に対する理解を深めた。本研究においても、 現地調査を随時続行する。(3) 資料収集については、 博士論文の際に蓄積したデータベースを活用し、さらに、引用文献に関連する一次資料(サンスクリット語文献、漢訳文献、チベット語文献)、二次資料を収集する。 一次資料については、現地調査を通してのみ得られる資料もある。」と記述している。その目的通りに、現地調査と厳密な文献学的考証を行い、研究成果として学術論文に発表することができた。ネパールにおける現地調査に関しては、ケンポー・カルマ・ゲンドウンの援助を受け、多大な成果をもたらすことができた。特に、他空派の新資料の収集が最大の成果である。平成27年4月下旬に起ったネパール地震に遭遇したが、無事帰還できたことも幸いした。
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今後の研究の推進方策 |
申請時に、本研究者は、今年度の研究として、他空派の引用文献の研究を行い、特に、密教教典の引用文献研究を焦点に当てることを当初の研究計画にしていたが、今年度の計画は、前年度に行ったネパール現地調査の成果によりもたらされた新たな文献収集を発表するように計画を変更する。これは、当初の予想より研究が進歩した結果である。すでに、第67回印度學佛教学会(東京大学)に「カルマ派13世の他空説」と題する発表原稿を応募しており(現時点では発表が認可されるかどうかは未定である)、研究成果が発表できることを期待している。ただし、昨年に起ったネパール地震の影響のため、今年度のネパール調査を実施するかどうか未定であり、研究計画の変更を検討している。さらに、今年度は、ハンブルク大学での博士論文を刊行する予定である。この博士論文はゲツェ・マハーパンディタの大中観他空説を彼の著作の読解にもとづいて、歴史的な視点から解説している。彼の他空説をドルポパやターラナータなどの周知の他空説派の系譜に位置づけ、さらに、彼の他空説が後世に成した影響を考察している。この論文のための予算についても修正をし、予算的にも研究計画を補正しなければならない。
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次年度使用額が生じた理由 |
郵送費の切手代が超過したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
郵送費を減額するよう努力する。なるべく、まとめて、コストのかからない方法を選ぶように努力したい。
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