最終年度の成果は二点ある。一つは日本印度学佛教学会(第67回学術大会 平成28年9月4日 東京大学武蔵野キャンパス)にて、「カルマパ13世の大中観他空説」という題目で口頭発表した後、『印度学佛教学研究』第65巻1号に論文として掲載された研究である。この発表は、カルマパ13世グ・グル・ドルジェが著した「理解と経験についての見解歌」に基づき、大中観他空説について彼がどのように理解し、提示しようとしているかを読み解くことを目的としている。これは、本科学研究費助成事業を通じて実施してきたネパールでのフィールドワークから来る成果である。まず、本研究者は平成26年に発表した科学研究費に基づく成果である「コントウルの「大中観他空説手引き」について」(『印度学佛教学研究』第63巻2号)の中で、コントゥルが、他空説の系譜の中にカルマパ13世を位置づけていることを指摘した。その後、さらに、カルマパ13世のテキストについてネパールでの調査を実施し、テキストを得て、発表に至った。平成27年には、本研究者が博士論文で取り組んだゲツェ・マハーパンディタの著作から特に「サムイエの宗論」についての論考を取り上げ、彼の大中観他空説と中国禅との関係についての彼の考察を読み解くことを目的とした。コントウルとゲツェ・マハーパンディタの両者いずれも、密教と大中観他空説を近似させていることに特徴があり、カルマパ13世では、大中観他空説と瑜伽行唯識派を近似させていることに特徴がある。成果の二つ目は、博士論文の英文での刊行である。ゲツェ・マハーパンディタの大中観他空説については本研究者が博士論文にて取り組んできたものであり、図書として出版した。
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