平成28年度は、研究の最終年度として、ジンメル宗教論の内在的分析を最終的に完成させるとともに、これまで考察を進めてきた近代ドイツ宗教思想史・宗教運動史の文脈におけるジンメル宗教論の位置づけを総括的に解明することを試みた。またこれまでは十分に取り組まずにいた、ジンメルの社会学思想や哲学思想と宗教思想との関連についてより分析を進めて、ジンメル宗教思想の全体像を明らかにすることを試みた。さらに、ジンメル全宗教論集の訳稿を完成させることができた。訳書は、平成29年秋ごろに刊行の予定である。 研究機関の全体を通じての成果として、課題であったジンメルの「時代文脈的」な位置づけということは十分になされえたものと考えられる。ジンメルは何よりも、同時代の社会・文化・宗教の直面する「危機」にうながされて思想を展開していった。そのなかで、ジンメルの思想は幾度かの大きな転機を経たが、とりわけ新カント派から生の哲学への推移のなか、ジンメルの宗教論がどのような一貫性と変容を示すかを詳しく検討した。この結果、ジンメルの宗教関連著作の全体を貫くいくつかのモチーフ、とりわけ宗教的アプリオリと社会的相互行為論とを関係づける視点や、「生の宗教」ともよぶべきその宗教的ヴィジョンの存在が確認されるとともに、それらに対し各時代において、その時代の文化・宗教状況ともからみつつジンメルがさまざまな修正を加えていったことが判明した。こうした成果については、国際宗教学会や台湾中央研究院中國文哲研究所にて研究発表を行った。
|