本年度は最終年度となるため、研究の総まとめを行った。カンボジアで再度調査を行い、主にクルアーン(コーラン)にかかわる業務にたずさわるチャム人ムスリムにインタビューした。 具体的には、2011年にクメール語(カンボジア語)とチャム語にクルアーンを翻訳したアフマド・ヤフヤー率いる委員会メンバーを訪問し、その経緯を聞き取りした。そこから、カンボジアのムスリムの現状についてのデータを多く得ることができた またイスラーム宗務最高評議会を訪問し、ここで新たに刊行されたクルアーン翻訳書について聞き取りを行った。現在は翻訳書はアプリになって広まっており、現代化の様相がうかがえた。 加えてクルアーンを私塾や学校で教えている女性教員たちにインタビューを行った。ここからチャム人ムスリム社会のイスラーム学習に対するニーズと問題点をさぐることができた。私塾で教える女性教員は生活が貧しく、その支えとして自分のクルアーンの知識を近隣のこどもたちに教えていた。また近隣のこどもたちの家庭も裕福ではなく、私塾でしか学べないとのことであった。他方、学校には政府の補助金があるため、レベルの高い教育が行われていた。 さらに本研究課題をまとめたものとして『チャムパ王国とイスラーム カンボジアにおける離散民のアイデンティティ』(平凡社)を刊行した。このことで、日本の一般読者に対して本研究の一端を知らせることができるようになったと考えている。
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