研究課題/領域番号 |
26370071
|
研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
深井 智朗 金城学院大学, 人間科学部, 教授 (40306379)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 大衆 / 編集者 / 思想史 / ヴァイマール期 / ヴィルヘルム期 / 出版 |
研究実績の概要 |
オイゲン・ディーデリヒス社が1900年代初頭に行った大規模な読者アンケートの記録を調査し、最初の読者カード制度の分析を行った。オイゲン・ディーデリヒス社は刊行した書物に必ずアンケート・ハガキを挟み込み、そこに読後の感想を書き込んでもらうことで読者の意識や理解度、また読者のニーズを調査しようとした。今回収集し、また調査したものは、当時分析された基本データ、オリジナルのハガキ、編集者たちによる統計の分析などであり、それをPDFファイル化し、整理した。それによって編集者と大衆のつながりを考えるためのさまざまな情報を入手することができた。 他方で、読者としての大衆について考えるために、この時代の「大衆」を分析した。とりわけヴァイマール期の大衆論としてパウル・ティリヒの議論を分析した。その上で、思想をもった編集者は、市場を教育したり、思想に自分が確信する思想をプロデュースし送り出すことに熱心になるために、ある地点を境に、自分の確信する思想よりも大衆の好みに左右されるようになり、編集者の思想が意味をもたなくなる。その時思想は思想ではなくなり、市場では嗜好品になる。読者アンケートはその境目がどこにあるのかを明確することに役立つことがわかった。 これらをもとに、論文、講演、また研究会を行い、さらに調査のためにドイツ連邦共和国を訪問し、特にガンゴルフ・ヒュービンガー教授から専門知識の提供を受けた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究においては、宗教思想を提供する読者(あるいは団体)とそれを市場に提供する編集者(出版社)と市場でそれを受け止める「大衆」、あるいは「読者」との関係を分析したが、その際オイゲン・ディーデリヒス社を対象とした。前回の科研費による研究調査の際に、既にこの問題を考えるためにヒントとなる「読者アンケート」が保存されていることが確認されていたために、一時資料を比較的早く入手することができたことが研究が順調に進展したことの理由である。 予定していたオイゲン・ディーデリヒス社への調査、収集した資料の分析、さらにはその背景となるこの時代の社会史的状況についての研究資料なども入手でき、それらに基づいて資料による分析と、社会史的な角度からの研究も順調に行うことができた。 研究環境が整っていたこと、前回の科研費の成果に基づいた、そこから発展させた主題であったこと、さらに良き協力者が得られたことも順調な進展の理由としてあげられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、この時代の宗教思想(宗教団体)、編集者(出版社)、市場における大衆との関係を検証する二つ目のサンプルとして既に解散したミュンヒェンの出版社であるクリスティアン・カイザー社の分析を予定通り行う。研究の目的および予定として計画した通り、夏に資料の収集のための調査にミュンヒェンに出かけ、クリスティアン・カイザー社の資料室にある史料を保存のためにコピーする。 また同時にヴィルヘルム時代、またヴァイマール期のドイツの大衆論の分析を引き続き行い、それを論文として公にする。 基本的には、論文、研究発表、研究会などを複数回行い研究成果を社会にできるだけ還元することをこころがける。
|