研究課題/領域番号 |
26370077
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
上村 直樹 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (40535324)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アウグスティヌス / 教父 / キリスト教 / 古代末期 / 心性史 / 修道制 / 人間論 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
研究初年度にあたって研究代表者・上村直樹は、研究計画にあげた課題A「古代の哲学的な生の規定は、いかに受容されるか」、ならびに 課題B「生の範型は、修道制との関わりのうちに、いかに探求されるか」の考察に着手し、研究成果を国内外の学会において発表した。そして、海外研究協力者との意見交換を通して、また研究成果の公刊を踏まえて、研究第二年度の研究の方向性を明確にすることに取り組んだ。 研究代表者はまず、2014年5月に開催された北米教父学会において、古代の哲学的な生の規定を3・4世紀北アフリカのキリスト教思想家のうちに検討した成果を発表し、ついで開催されたカナダ教父学会では、キリスト教的な生の範型について、アウグスティヌスの「書簡」のうちに考察した論考を発表した。研究者からの批評と意見交換を通して、課題AとBを相補的に検討するという本研究の妥当性について検証した。 ついで9月上旬に開催されたアジア環太平洋初期キリスト教学会、9月下旬に開催されたセントアンドリューズ神学院教父学シンポジウムでは、アウグスティヌスの「説教」において課題Bを検討した成果、そして、東方教父からの影響を課題Aに即して考察した論考を発表することによって、アウグスティヌスの著作全体のうちに本研究を展開する可能性を検証した。 年度後半には、2015年4月にマルタ共和国で開かれる北アフリカ教会の説教を主題とするコロキウムに参加する準備をすすめた。そして3月上旬には、オーストラリアカトリック大学初期キリスト教研究センターでの年次集会、3月下旬にはアメリカ合衆国アイオワでのShifting Frontiers in Late Antiquity 学会において研究成果を発表し、研究者からの批評と意見交換を通して、また、海外研究協力者との意見交換を通して、次年度に検討するべき課題についての考察を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究を遂行することによって、当初の研究計画において設定した課題に関して、アウグスティヌスの思考の実態をその「書簡」「説教」を中心としたテキストに即して考察することができた。 課題Aについては、アウグスティヌスが古代の哲学的な生の規定をその基本的な様相においては踏襲しつつも、著作のタイプによっては、その倫理的な観点に重心を置く、あるいは聖書釈義的な観点に重心を置くという力点の差異を明らかにした。さらに、先行する北アフリカ教会の思想家のうちにこの規定を探索することによって、また、東方教父からの影響を確認することによって、哲学的な生の規定が古代末期に一貫する関心事であったことを明らかにした。 課題Bについては、古代末期の生の範型に関するアウグスティヌスと北アフリカ教会に生きた人々の関心のありかを、その「書簡」と「説教」において検討することを通して、キリスト教的な枠組みから一貫して生の範型を考えているアウグスティヌスに対して、古代末期においても依然として異教的な枠組みをも組み込んだ仕方で自らの生の範型を規定している会衆が、つねにアウグスティヌスの周りに存在し、一定の緊張関係が持続したという古代末期の社会の実態を明らかにした。 さらに本年度の研究においては、シカゴで開催された北米教父学会、ならびにシドニーで開催されたセントアンドリューズ神学院教父学シンポジウムにおける研究者との討論を通して、新たな研究ネットワーク構築を展望することができた。これらの交流を通して、次年度4月に開催されるマルタ共和国でのコロキウム、また、8月にオクスフォードで開催される国際教父学会でのワークショップへの参加が決定するとともに、在台湾の研究者との交流を通して、次年度刊行予定の雑誌特集号への寄稿が決定した。 以上、一連の研究成果について、ウェブサイトを通して周知する枠組みを制作した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進展によって、当初の研究計画において設定していた次年度の課題C「心性の複層性は、同時代の環境との関連において、いかに捉えられるか」を考察する準備がととのえられたと考えられる。そこで、研究計画が順調に進展していること、また、当初に参加を予定していなかった国際学会での発表が組み込まれたことを踏まえて、4月にマルタ共和国において開かれる北アフリカ教会の説教をテーマとするコロキウム、また2015年8月に開催される国際教父学会での研究成果の発表準備に集中するとともに、これらの成果を欧文にて寄稿、公刊することを次年度の中心課題とする。 また、研究最終年度に向けて、海外研究協力者との意見交換を密にすることを通して、古代修道制とアウグスティヌスの思想との連関について、研究初年度においては扱わなかったテキストの分析に取り組むことによって、この課題に集中する。これは、宗教的な次元と世俗的な次元とが複層的に交錯している古代社会、とりわけ北アフリカ教会における心性の実態について、アウグスティヌスがいかに対処していたかを検討するというテーマであると同時に、アウグスティヌスの心性についての固有の観点を明らかにするというテーマでもある。 これらの研究を推進するにあたっては、研究初年度において購入したラテン・キリスト教思想家のテキストデータベースを有効に活用することによって、研究の効率化をはかるとともに、研究代表者が参画している環太平洋アジア地域の研究者ネットワークにおける情報交換の仕組みを利用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
北米教父学会への参加と研究者との交流を通して、新たな研究ネットワークへの参画が決定し、当初の研究計画においては立案していなかった国際学会への参加が求められることになった。また、研究計画立案時点で購入を予定していたテキストデータベース以上に広範囲のテキストを検索可能なデータベースを購入することが可能になったが、当初に設定されていた消耗品費を超える金額が必要になった。そこで以上の経緯を踏まえ、次年度における旅費への研究費充当が求められることも勘案しつつ、本年度の計画において購入を予定していた消耗性図書とPCソフトウェアの発注をすべてキャンセルすることによって、次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに参加することが決定している国際学会のために充当される研究費は、2015年4月にマルタ共和国において開催される国際コロキウム、8月に英国オクスフォード大学において開催される国際教父学会、2016年2月にオーストラリア・メルボルン大学において開催されるオーストラレイシア古典学会、ならびに3月にオーストラリア・ブリスベンにおいて開催されるオーストラリアカトリック大学初期キリスト教研究センター年次集会、これらの学会参加のための旅費を合算して110万円となる予定であり、当初に予定されていた研究費120万円の大部分が充当される。今回生じた次年度使用額の約10万円と予定されていた研究費のうちの残額約10万円を合算した約20万円については、消耗性図書購入をメインとして、研究計画の推進のために必要な文献複写費にも充当する。
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