研究課題/領域番号 |
26370077
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
上村 直樹 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (40535324)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アウグスティヌス / 教父 / キリスト教 / 古代末期 / 心性 / 修道制 / 人間論 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
研究第二年度にあたって研究代表者・上村直樹は、当初の研究計画にあげた課題のなかで、ひきつづいて課題 B「生の範型は、修道制との関わりのうちに、いかに探求されるか」の考察にとりくむとともに、課題 C「心性の複層性は、同時代の環境との関連において、いかに捉えられるか」に着手した。そして、これらの研究成果を海外の学会において発表するとともに、諸媒体においてその成果を公刊することをめざした。さらに、海外研究協力者(オーストラリアカトリック大学、ポーリーン・アレン教授)との意見交換を通して、最終年度において研究成果を冊子体の報告書として刊行するための準備にとりかかった。 研究代表者は、まず4月にマルタ共和国で開催された北アフリカ教会の説教を主題とする国際コロキウムにおいて、キリスト教的な心性と異教的な社会環境との干渉と葛藤の実態について分析する研究を発表した。ついで、英国オクスフォードで開催された国際教父学研究集会において、さきのコロキウムでの課題をアウグスティヌスの書簡を題材に分析する研究を発表した。また、オランダのブリル社から出版された論文集に、アウグスティヌスへの東方教父からの影響を主題とする論文を掲載した。 年度後半には、研究初年度に構築した国際研究ネットワークにおける交流を通して、海外諸媒体に投稿する論文の修正と加筆にとりかかった。マルタでのコロキウムに発表した成果をまとめた論文は、ベルギーの出版社へ提出し、前年度から寄稿を依頼されていた台湾の雑誌 Universitas への論文も提出した。これらの論文はいずれも掲載が認められ、出版にいたる最終段階にある。そして、3月上旬のオーストラリアでの年次集会に参加、研究成果を発表し、最終年度における研究発表の一部について、先行して準備をすすめた。あわせて海外研究協力者との意見交換を通して、研究の進捗状況についての確認をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究を順次遂行し、研究計画において設定したスケジュールのもとで研究成果を発表、公刊することができたので、順調に研究が進展していると考えられる。当初の計画では、研究第二年度において課題A「古代の哲学的な生の規定は、いかに受容されるか」と課題B(上述)に初年度から引きつづき従事するとともに、年度途中からそれらの成果を踏まえ、課題C(上述)にとりくむ計画であった。その予定におくれることなく、むしろ課題Aを先行して達成したことをうけて、当初の予定以上に課題Cの遂行に集中することができた。 課題Bについては、古代修道制とアウグスティヌスの思想との連関について、新たなテキストの分析にとりくんだ。この課題に関しては、ひきつづき当初のスケジュールにしたがって計画を遂行する。課題Cについては、古代末期の生の範型へのアウグスティヌスと北アフリカ教会に生きた人々の関心について、考察を加えてきた「説教」と「書簡」をさらに分析し、北アフリカ教会と教会を取りかこむ古代末期の社会の実態への理解を一層深めることができた。したがって、冊子体の研究報告書を刊行するスケジュールと各課題の進捗状況を調整しつつ、予定通りに研究をすすめていきたい。 本年度の研究では、昨年来構築された国際研究ネットワークを充分に活用し、マルタ共和国でのコロキウム Ministerium Sermonis III、英国オクスフォードでの国際教父学研究集会という重要な国際学会において発表をおこなった。また、これらの発表もふくめて、研究の成果を諸媒体を通して公刊することにとりくみ、この点では当初予期していた以上の成果をあげることができた。これら一連の研究成果については、すでに本研究のために初年度から開設したウェブサイト、また人文学系研究者が参加する世界的な SNS <academia.edu>のページを通して周知するようにつとめた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進展をふまえ、当初の計画どおりに課題C「心性の複層性は、同時代の環境との関連において、いかに捉えられるか」にとりくむ予定である。そして、研究計画が順調に進展しており、当初は参加を予定していなかった国際学会へと招聘されたことから、これまで以上に研究発表の相互の関連性について配慮しつつ、欧文での研究成果の国際諸媒体への投稿、出版に注力していく。具体的には、国際研究ネットワークを活用したことを契機にして、9月にロシア・サンクトペテルブルクにおいて開催されるアジア環太平洋初期キリスト教学会、10月に台湾・国立屏東大学で開催される Taiwan Association of Classical, Medieval and Renaissance Studies の第10回研究集会、11月に英国・カンタベリーのケント大学で開催される国際交流集会への参加がすでに決定したので、一層の相互交流をすすめ、最終年度の研究成果をまとめるための環境をととのえつつ、課題Cを中心とした研究計画を円滑に遂行していきたい。 また研究最終年度においてもまた、海外研究協力者との意見交換を密にすることによって、古代修道制とアウグスティヌスの思想との連関について検討する。これは、宗教的な次元と世俗的な次元とが複層的に交錯している古代社会、とりわけ北アフリカ教会の全貌を解明するためには不可欠な作業であり、アウグスティヌスの心性についての固有の観点を明らかにするというテーマにも関係するので、適宜学会等において意見交換の場をもうける予定である。 これらの研究を推進するにあたってはひきつづいて、研究初年度に購入したラテン・キリスト教思想家のテキストデータベースをもちいることによって分析の効率化をはかるとともに、研究代表者が参画している環太平洋アジア地域の研究者ネットワークにおける情報交換の仕組みを活用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ベルギー・ルーヴァンカトリック大学、英国・ケント大学、台湾・輔仁大学の研究者らとの交流を通して、新たな研究ネットワークへの参画が決定し、当初の研究計画においては立案していなかった研究最終年度における国際学会への参加が求められることになった。そのため、当初の計画以上に旅費に研究費を充当しなければならなくなったので、本年度の計画において購入を予定していた消耗性図書とPCソフトウェアの発注をすべてキャンセルし、結果次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに参加することが決定している国際学会は、2016年5月に米国・シカゴにおいて開催される北米教父学会、5月にカナダ・カルガリーにおいて開催されるカナダ教父学会、2016年9月にロシア・サンクトペテルブルクにおいて開催されるアジア環太平洋初期キリスト教学会、9月末シドニーにおいて開催されるセントアンドリュース・ギリシャ正教会神学院主催の教父学シンポジウム、10月台湾・国立屏東大学において開催される研究集会、11月に英国・カンタベリーのケント大学において開催される国際交流集会である。現在のところ、これらの学会参加のための旅費を合算すると、155万円となる予定であり、当初に予定されていた研究費に加えて、次年度使用額を充てることによって、研究計画を遂行する予定である。残りの金額については、消耗性図書購入に充てるとともに、冊子版研究報告書の作成のための費用に充てる予定である。
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