研究実績の概要 |
本研究は、古代末期の地中海世界において人間の生がいかに捉えられていたかを問いなおすとともに、その問いに答える思想の展開を明らかにするという思想史的な視点から、古代人の「心性」を包括的に理解することを目的とする。この目的にむかって本研究は、先行の科研費研究の成果をふまえ、つぎの三項の課題を設定し、その解明にとりくんだ。 A. 古代の哲学的な生の規定は、いかに受容されるか。 B. 生の範型は、修道制との関わりのうちに、いかに探求されるか。 C. 心性の複層性は、同時代の環境との関連において、いかに捉えられるか。 北アフリカ・ヒッポのキリスト教司教アウグスティヌスの上述の課題にかかわるテクストを『説教』と『書簡』もあわせて検討し、先行するアフリカのラテン教父、また同時代の東方教父の著作へも考察範囲を広げることによって、アウグスティヌスの「心性」理解は、神の恵みによって自己を変容する可能性を唱道するという勝義にキリスト教的な観点から捉えられること、また、初期からほぼ一貫して、聖書注解をとおして確立したキリスト論によって根拠づけられていることが明らかにされた。さらに、司牧経験をとおした共同体の実態についての理解の深化から、アウグスティヌスがキリスト教共同体のあるべき姿との隔たりを問題視していたことも明らかにされた。 構築した国際研究ネットワークを活用し、昨年度とおなじく国際学会において発表をおこなった。また、その成果を欧文の書籍、雑誌論文、書評として公刊するとともに、欧文冊子体の研究報告書 (Disciplines and Identities, Divine and Spiritual, in Late Antiquity) を作成した。本研究は、海外研究協力者との密接な協力関係をふまえ、オーストラリア、台湾、ベルギー、英国、カナダの研究者との交流を通して推進された。
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