最終年度には、前年度に作成した「カント市民社会論の研究(中間まとめ)」について全体の大幅な見直しを行って改編し、新たに「カントの世界市民主義―十八世紀ドイツ啓蒙におけるカント歴史哲学の知識社会学的研究―」を作成し、その後、これをさらに精査、点検して同タイトルの成果報告書(2018年2月、A4版、364頁)を印刷、製本した。最終年度の研究活動は、もっぱらこの成果報告書の作成に向けられた。 本研究の課題は、Ⅰ.カントの時代、いわゆる「啓蒙の時代」における道徳性優位の社会的エートスを具体的に解明すること、Ⅱ.カントの諸論考において、この道徳性優位のエートスの反映を文献内在的に精査して検証すること、そして、これらの内容を補助事業期間以前の研究業績も含めて、全体として取りまとめることだった。 Ⅰ.については、カントと思想的な親密性のある「ベルリン水曜会」の啓蒙論議に着目して、「啓蒙の時代」の道徳性優位のエートスを抽出した。「ベルリン水曜会」は、ドイツ法学やドイツ文学の研究で取り上げられることはあるものの、カント研究に導入した例はなく、今後のカント研究にとって学術的意義は大きい。 Ⅱ.については、カントの歴史哲学が「開化Kultivrierung」「市民化Zivilisierung」「道徳化Moralisierung」という重層的構造をそなえていること、とりわけ「市民化」に対して「道徳化」が優位に置かれることが示された。法的な市民的体制としての諸国家は「連合」を目指しつつ、同時に人類は全体として道徳的な「世界市民社会」を目指す。この道徳的な世界市民主義の原理が「定言的命法」にほかならない。 カントの「形而上学的見地」と「世界市民的見地」が表裏の関係にあることを、時代のエートスを解明しつつ文献内在的にも検証したところに本研究のユニークな意義と重要性がある。
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