研究課題/領域番号 |
26370086
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
合田 正人 明治大学, 文学部, 教授 (60170445)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジャン・ヴァール / レオン・ブランシュヴィック / エマニュエル・レヴィナス / スピノザ / 多元論 / ラディカルな経験論 / シャルル・ルヌヴィエ / メルロ=ポンティ |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究活動について報告させていただく。まず、昨年に引き続き、8月末から9月初旬にかけてフランスに赴き、パリの国立図書館にてヴァール、ブランシュヴィックについての調査を行うとともに、カンのIMECに滞在し、ヴァールの未公刊講義草稿を閲覧した。今回閲覧したのは、アメリカ合衆国から帰還した直後のヴァールのハイデガー講義で、ハイデガーのキーワードにヴァールがどのような訳語をあてていたかといった微細な点で数多くの発見があった。また、レヴィナスが講義のゲストとして招かれていることも判明し、昨年のプラトン講義閲覧と同様、実り多い調査であった。 その後、偶然にもジャン・ヴァールの三女バルバラさんと接触を持つことができた。バルバラさんはイタリアのアオスタにお住まいで、退職後、父親の遺した様々な資料を整理しておられるとのことで、ジャン・ヴァール研究にとってこれ以上の貴重な機会はあるまいと思い、9月に、バルバラさんを訪ねた。ジャン・ヴァールおよびその父親の蔵書の一部を見せていただくとともに、ヴァール家の家系を数世紀前まで辿り、更には、ヴァール自筆の様々な書類、覚書を拝見することができた。加えて、口頭にてヴァールの人となり、例えばレヴィナスとの交渉について、他所では聞くことのできない話を伺うことができたのも大きな収穫であった。 同じく9月には、日本メルロ=サークルの大会でのシンポジウム「メルロ=ポンティと17世紀」に招聘され、メルロ=ポンティとスピノザについて発表をおこなったが、その際、レオン・ブランシュヴィックの『スピノザとその同時代人たち』でのスピノザ解釈にメルロ=ポンティがほぼ全面的に依拠していることを示した。 ヴァールの博士論文『英米の多元的哲学』邦訳の作業も順調に進んでおり、平成28年度中には何とか完成できるものと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的課題はジャン・ヴァールとレオン・ブランシュヴィックの未公刊文書の調査である。二年続けてカンのIMECにてそれを実行することができたとはいえ、閲覧はきわめて厳しい条件のもとでのみ可能で、残念ながら遅々として進まない。これまでに閲覧できたのは戦前のプラトン講義と戦後のハイデガー講義で、それだけでも大きな収穫なのだが、今後、どのような仕方で閲覧するか、改めて考えなければならない。しかし、二人の哲学者についての研究を起点として、フランスの19、20世紀哲学の捉え直しを試みるという点では、ある程度の進展があったと言える。ヴァールの博士論文『英米の多元的哲学』は、フランスの哲学者シャルル・ルヌヴィエにも触れていて、そこでは、ルヌヴィエがどれほど大きな影響をウィリアム・ジェイムズに与えたかが詳細に論じられている。英米哲学へのヴァールの関心は、ある意味ではルヌヴィエの仕事をヴァールが引き継いでいるということでもあって、今ではほとんど顧みられることのないルヌヴィエという哲学者が、ドゥルーズのような哲学者に至るまで、隠れた力を発揮しているのではないかという仮説を抱くことができた。ルヌヴィエはまた社会学者ガブリエル・タルドにとっても決定的な意味を持った哲学者で、タルドという社会学者の「差異」「類似」「微分」をめぐる考察を19、20世紀フランス哲学史に組み込む可能性が出てきたように思われる。一方のブランシュヴィックについては、彼の『スピノザとその同時代人たち』の精読を通じて、それが、レヴィナスのみならず、メルロ=ポンティのスピノザ理解を決定し、更には、逆説的にも「知覚の現象学」を可能にしたのではないかと考えるに至った。主知主義者ブランシュヴィックというイメージを覆すかもしれない発見であったと思っている。上記のように。ヴァールの実子と接触を持てたのも思いがけない幸運であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後もIMECでの文献調査を続けるが、次回はヴァールが創設したコレージュ・フィロゾフィック関連の文献に対象を絞って調査を展開したい。レヴィナスのコレージュ・フィロゾフィックでの講演が『著作集』第二巻で読めるようになった今、同機関の活動の詳細を辿ることが本研究にとって肝要であると考えたためである。 平成28年度は、ヴァールとブランシュヴィックをめぐる二つの発表を予定している。ひとつは、6月15日にプラハのカレル大学で開催されるレヴィナス・シンポジウム招聘講演で、レヴィナスの『全体性と無限』に記されたempirisme radicalという語をめぐってヴァールの博士論文が果たした役割を語るともに、ヴァールのデカルト論がレヴィナスに与えたものについても仮説を提示する。また、いまひとりのこの博士論文の読者がジル・ドゥルーズであったことにも触れる。この点については、檜垣立哉氏を研究代表者とするドゥルーズ研究の研究発表会でも問題提起を行う予定である。 いまひとつは、7月末にアメリカ合衆国のバークレーで開催されるレヴィナス・シンポジムにて、『困難な自由』に収められたブランシュヴィック論を取り上げ、ブランシュヴィックとレヴィナスとの連関について講じる予定である。 このヴァールの博士論文については平成28年度中にその全訳を完成させるべく努力したい。 ヴァール研究を通じてルヌヴィエとタルドの重要性が明らかになってわけだが、この点については平成27年度末に約350枚の原稿を書き上げており、これを更に拡充して平成28年度中に出版するべく努力したい。 報告者が研究代表者を務める「現象学の異境的展開」(明治大学人文科学研究所総合研究)との連携を密にし、そのなかで、ヴァール。ブランシュヴィックについての小シンポジウム開催を検討する。
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