本研究は、レオン・ブランシュヴィックとジャン・ヴァールという二人のフランスの哲学者の業績を、彼らの未公刊草稿にも注目しながら改めて検討し、19世紀末から20世紀に至るフランス哲学の流れを新たに解釈する可能性を探ることを目的として開始された。まず、フランスはカンに創設されたIMECと接触し、IMECに蔵されているヴァールの未公刊文書の閲覧の許可を得、初年度ならびに第二年度、同施設を訪問して、1930年代後半のヴァールのプラトン講義、アメリカ合衆国への亡命直前のハイデガー講義の草稿を閲覧した。エマニュエル・レヴィナスが聴講していた可能性もある講義であり、レヴィナスに示唆を与えたかもしれない多くの箇所を発見することができた。加えて、第二年度には、ヴァールの三女バルバラ・ヴァール氏とコンタクトを取ることに成功し、イタリアはアオストに氏を訪ね、他では伺うことのできない話を聞き、また、ヴァール家の系譜に係るきわめて貴重な資料を見ることができた。 このような調査を続ける一方で、報告者はブランシュヴィックの最初の著作『スピノザ』を取り上げ、この著作がメルロ=ポンティ、レヴィナス、ラカンらに与えた作用を分析した。成果は日本メルロ=ポンティサークルの紀要などに発表した。加えて、申請者はヴァールの博士論文『英米の多元論哲学』の読解、翻訳を進め、ヴァールのキーワードとして「リズム」に着目し、科研費によるドゥルーズ研究(研究代表者、檜垣立哉大阪大学教授)のセッション、ニューヨーク州立大学リチャード・コーエン教授主催の夏期レヴィナスセミナー(バークレー)、立命館大学哲学会などで、ヴァール、レヴィナスにおける「リズム」と「意味」をめぐる発表を行い、論文を学会誌に発表した。ヴァールの博士論文の翻訳は現在も進行中である。
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