研究課題/領域番号 |
26370090
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
鷲巣 力 立命館大学, 文学部, 教授 (30712210)
|
研究分担者 |
小関 素明 立命館大学, 文学部, 教授 (40211825)
渡辺 公三 立命館大学, 先端総合研究科, 教授 (70159242)
中川 成美 立命館大学, 文学部, 教授 (70198034)
福間 良明 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70380144)
根津 朝彦 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (70710044)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 羊の歌 / フランス留学 / フランス文学 / 日本文学 / 戦争体験 / 戦後体験 / 超越的思考 / 「いま・ここ」主義 |
研究実績の概要 |
本研究の平成26年度の研究目的は加藤周一の「知の世界」はいかに形成されたかを解明することにあった。そのための第一歩の作業として、加藤が著した半生記『羊の歌』『続羊の歌』を精読するところから始めた。三回の研究会を開いて、小関研究員、鷲巣研究員の報告、質疑、討論を行なって、各研究員の問題意識を確認し、問題意識の共有を図りながら、研究目的を遂行した。研究会を通して明らかになってきたことは、通説とは違って、加藤は早くから日本文化(文学・美術中心)を研究対象にしたことが理解できた。フランス留学はきわめて大きな影響を加藤に与えたが、フランスの留学先はパリ大学医学部やパスツール研究所やキュリー研究所であった。ところが、加藤は医学を本格的に学ぶことは最初から意図しておらず、フランス文学、フランス文化を学ぶことさえ目的とはしていなかったと理解できる。そうではなくて、日本文化をより深く理解するため、海外の文学研究者と同じ土俵の上で議論ができることを目指し、日本文化研究のための方法をフランス文学やフランス文化から会得しようとしたのであった。フランス留学の成果とされる「雑種文化論」でさえ、フランスで初めてつかんだ見解ではなく、日本でおおよその見当をつけ、フランス文化を見る過程で確信をもった、あるいは再確認した見解である、と考えられる。 また加藤の著作活動をはじめとする文学者としての活動の原点は、戦争中の戦争体験にあるだけではなく、敗戦直後の体験に根ざしていることも了解できたが、これも新たな発見である。すなわち、知識人、大衆の別を問わず、日本人のものの考え方に超越的思考がなく、「いま・ここ」主義が強くあることをすでにつかんでいる。『羊の歌』を精しく読むことによって発見できた数々の事実や見解は、鷲巣研究員が刊行する『『羊の歌』を精読する』(岩波書店、2015年刊行予定)で世に問うことになる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的の達成度が「やや遅れている」と判断する理由は五つある。第一の理由は、研究初年度ということもあり、各研究院の日程が予想外にタイトであり、当初予定した二ヶ月に一回の研究会開催が実行できずに、三回の研究会開催に留まったことによる。 第二の理由は、加藤周一研究はアカデミーの世界では未開拓の領域であり、研究のよりどころになる必読文献などがなく、各研究員が各自の方向性をつかむのに難儀したことによる。 第三の理由は、加藤自らがいう「蓄積の時代」のカナダUBC(ブリティッシュコロンビア大学)における研究に関する調査が行うことができなかったことによる。これは第一の理由、第二の理由と関連しており、準備不足は否めず、準備不足のままに現地調査に踏み切ることを良策だと判断しなかったことによる。 第四の理由は、加藤自身に対する研究が十分に進んでいないので、必然的に同時代を生きた知識人と加藤を比較するという研究が共同研究の域に達しなかったことによる。 第五の理由は、加藤は国際的に活躍した知識人であり、海外の研究者たちが加藤をどのように理解するかという視点が不可欠である。にもかかわらず、本研究プロジェクトに外国人研究員が不参加であったことによる。以上、五つの理由により、当初計画を遅れる結果となった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度における研究目的は「戦後思想史に加藤を位置づける」ことにあるが、平成26年度の目的の中で達成していない課題にも取り組まなければならない。対策としていくつかのことを予定している。 まず第一に、2016年度に予定されている『加藤周一文庫』の開設に向けた準備作業が立命館大学図書館を中心に進められているが、この整理作業にも積極的に関わることによって、研究が促進されるように計らう。この文庫には未発表の一万頁を越える「ノート」や加藤が使った資料が蔵されており、加藤研究にとっては日可決の資料が随意に使える利点を活かしたい。なお、開設記念のシンポジウムを予定するが、そこには国内外の加藤研究者や加藤とかかわりのあった知識人を招聘する予定である。おそらく新しい事実が多く紹介されるだろう。 第二に、外国人研究者複数名を招聘して合同研究会を開催すること。このことによって、海外研究者の視点を理解できるし、学内研究者に刺激を与える効果も期待できるに違いない。 第三に、加藤の日本文化史研究の一環である美術史の研究者が本プロジェクトに参加していなかったが、美術史研究者に参加していただくめどがたったので、この分野での研究も進める。 第四に、今年度はカナダUBCへの調査を行ない、加藤の「蓄積の時代」とはいかなるものであり、どんな文献を使って、どんな研究を進めたかを明らかにしていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
最大の理由は、カナダUBC(ビリティッシュ・コロンビア大学)への調査研究出張を見合わせたことによる。これによって65万円が次年度に回った。また各研究員の東京出張などもひかえたので、50万円ほどが次年度に回った。また文献購入も予想よりも少なく、消耗品費もパソコンが予定よりも安価な機種を購入したので、合計で1,322,670円が次年度に回った。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度はカナダUBCへの調査研究出張を行う予定であり、その出張は当初の10日間では足りず、20日ほどを考慮しており、およそ100万円ほどがかかるものと推測する。また外国人研究者の研究会への招聘を予定しており、招聘のための費用が数十万円発生するし、国内でも美術史研究者や映像研究者の研究会への招聘を予定するので、それらにも費用が発生すると考えている。さらに「加藤研究のための文献の収集に数十万円かかるものと予定する。
|