研究課題/領域番号 |
26370092
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
福中 冬子 東京藝術大学, 音楽学部, 准教授 (80591130)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 現代音楽創作 / 冷戦 / フランス |
研究実績の概要 |
本研究は、冷戦期初期(1944年から1968年)における西欧の政治・社会構造が、戦後フランスの芸術音楽の創作・ 受容の諸活動に直接的あるいは間接的に与えた動機の検証を通じて、戦後の音楽創作にて先導的立場をとってきた作曲家、批評家、演奏家らにより「新音楽/当代音楽」の定義―あるべき姿―かどのように共有され、あるいはどのような経緯で相反するイデオロギーへと分岐したのか、その社会・政治・思想的文脈を明らかにすることを目的とする。前年度に終了した科研基盤研究(c)(「『文化的自由のための会議』から検証する、現代音楽における『政治性』」)では、冷戦期初期、西ヨーロッパの「インテレクチュアル」に根強く残る、共産主義への憧憬および「米国=帝国主義」という構図への精神的・文化的闘争手段として、アメリカ政府が秘密裏の資金援助を通じた一連の文化プログラムの音楽領域を検証したが、その検証から明らかになったのが、そのプログラムの主たる対象であったフランスが、(当然のことながら)親共・反共あるいは親スターリニズム・反スターリニズムといった二項対立には収まりきれない、複雑な心理状態の内に自身の音楽創作の道程を創りあげたいたという事実である。その根源にあるのは、ヴィシー政権下における、自国フランス音楽の一部や「前衛」とされた同時代音楽に対する抑圧や、戦後、その反動として極度に政治化した芸術領域の有り様に対する、一部の若手音楽家の反動などだが、本研究題目の初年度にあたり平成26年度は、当時どのような音楽活動がどのような人々によってどのような動機のもと行われ、そしてそれがどのようにリポートされていたのかを指し示す資料および当事者の書簡などを通した「表」に現れなかった思考の検証を行った。二度に亘るパリでの資料調査(国立図書館本館および音楽館・オペラ館、マーラー音楽館)における調査では、ほぼ予定していた資料が入手できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は二度、パリにて資料調査を行った。国立図書館およびマーラー音楽資料館では、日本では入手困難な当時の雑誌・新聞記事、終戦後20年程の間にパリを中心に、フランス音楽創作界で重要な立ち位置を占めた音楽家(ニグ、ケクラン、デソミエール等)に関する一次資料や関連音楽祭の記録(プログラムやチラシなど)を収集することができた。一方、まだ歴史が浅いということもあり、当該音楽家の資料にはまだ整理されていない、カタログ化されていないものも少なくなく、それら資料をどのように効率的に収集・検証するかが今後の課題である。また、平成26年度はこの資料調査についてまとまった成果を発表することができず、今年度に持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
26年度の成果を受け、今年度は収集した資料の整理・検証を続けるとともに、検証対象とする音楽家の範囲を広げることとなる。とりわけ、50年代、60年代フランス音楽創作の動向を多角的に見極めるうえでやはりブーレーズの存在をバイパスすることはできないことから、ブーレーズ関連の一次資料が所蔵されているザッハー財団におけるブーレーズ関係の書簡の検証も視野に入れている。
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