研究課題/領域番号 |
26370092
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
福中 冬子 東京藝術大学, 音楽学部, 准教授 (80591130)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 現代音楽 / 冷戦 / イデオロギー |
研究実績の概要 |
平成27年度は、ルネ・レイボヴィッツ、セルジュ・ニグ、シャルル・ケクランを中心に、第二次大戦後フランスの思想界と現代音楽創作がどのように交差したのかを以下の資料を通して検証した。1)『Les Lettres Francaise』、『L'Humanite』、 『Les Temps modernes』、『Quel Tel』およびその後継誌である『L'infini』などの雑誌、新聞中の記事(とくに作曲家による批評記事やレポート);2)上記の作曲家に関する一次資料(所蔵元:フランス国立図書館リシュリュー館、マーラー音楽資料館);3)関連領域の先行研究等。この内1)に関しては、東京で入手不可能なアイテムも少なくなく、2月に2週間にわたっておこなったパリでの現地調査(於:フランス国立図書館フランソワ・ミッテラン館)中にマイクロフィルムを閲覧・複写できたのは非常に大きな収穫だった。この調査を通じてある程度明らかになったのは、たとえば「親スターリン主義」などの根本的な姿勢はあるものの、掲載されるエッセイや記事、批評はその内容やイデオロギーに開きがあり、その「開き」はたとえば1968年の5月革命においても、「革命自体にはエンファティックだが、革命における音楽の使用には反対」など、多数の齟齬を含み得るものであるということである。2)に関しては、これまでの音楽史記述において極めて周辺的に位置づけられてきたケクランが、大戦後の創作界におけるイデオロギー上の不協和音が出る際の「セクト性」構築に、戦前期大きな役割を担ったということである。 本年度はこれらの研究結果を発表する機会はなかったが、28年度は予定されている国際学会発表が2つ(7月ソウル、3月東京)あり、それぞれで途中経過を発表するつもりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在入手でき得る資料はほぼ入手した状態だが、もっとも手痛いのが、本題目を検証するにあたり必須である、セルジュ・ニグ関係の一次資料(メモ、日誌、書簡、レクチャー原稿など)が、2008年の没後、ほぼ整理されていない状態で遺族に保管されていることである。遺族とはニグ研究の第一人者であるフランス人音楽学者を通じてコンタクトはとってあるが、資料の閲覧には大きな障壁が多々ある状態である。
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今後の研究の推進方策 |
上で述べたように、ニグの未出版資料をのぞいては、必要資料がほぼ揃った状態であり、それにくわえて、それらの検証も順調に進んでいる。平成28年度はそれらの検証結果をまとめ、2つの国際学会で発表する予定である。 今後の研究の広がりについては、やはり比較を通じた文脈化が必要とされるため、同時期のドイツにも目を向けることを考えているが、パリ集中型のフランスの文化形態とは大きくことなるシチュエーションを内包するドイツとの比較がどの程度有効であるか、検証していくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は公務等ほかで多忙であり、計画していた国内学会出張を取りやめたほか、2月に行ったパリ出張については、当初予定していた期間より短期の出張のとどめたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は7月にソウル出張(学会発表)が決定しているほか、9月に再度パリにて資料収集をおこなうつもりであるため、それらに充てられることとなる。
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