本研究は当初、平成28年度で終了する予定であったが、平成29年3月に、所属する東京芸術大学を主催のひとつとする「第20回国際音楽学会」が開催され、本研究者は実行委員として実質的にほぼすべての企画・運営に中心的に関わり、その準備のため28年度の研究計画が思ったより進捗しなかった。よって一年の延長となった。平成29年度は夏季に在メリーランドの米国国立公文書館にて、春季にスイス・バーゼルおよびパリ国立公文書館、ニューヨーク市立図書館にて資料調査を行い、またそれまでの研究成果一部は、12月に台湾国立大学での招聘講義にて発表した。 第二次大戦後フランスの思想(とくに、文学界、芸術界の中心的人物の一部に共有された親共産主義思想)と現代音楽創造がどのように交差したのか、当時の作曲家と思想界のとの近接を通じて考察することを目的とした本研究は、一義的な成果として、ルネ・レイホヴィッツ、セルジュ・ニグ、シャルル・ケクランを中心とした作曲家と思想界との相互交通を明らかにしたことである。とりわけ、ニグとケクランについては先行研究が非常に少なく、また第二次大戦後フランスの創作史記述がブーレーズ等を中心とした前衛楽派に焦点を置く傾向にあることにも鑑みると、この両者の当時の音楽界での役割が解明できたことが大きい。またこうした戦後フランスの音楽界が意識していたであろう、西側(とくに合衆国)の文化政策についても、一次資料を通じた検証に着手できた。
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