本研究は、冷戦期初期(1944年から1968年)フランスの社会構造が、芸術音楽の創作・ 受容の諸活動に直接的あるいは間接的に与えた動機の検証するものである。戦後フランスの創作界が親共・反共といった二項対立には収まりきれない、複雑な心理状態の内に自身の音楽創作の道程を創りあげていたという認識を前提に、概して、極度に専門家された音楽創作を巡る記述に収斂されがちな戦後フランス音楽が、実は戦前から続く、より「一般向け」の音楽創作の系譜や、労働者向けの合唱曲の創作などに、いわゆる「前衛系」の作曲家も少なからず関わっていたことをあきらかにし、戦後フランス音楽創作の多様性を示した。
|