研究課題/領域番号 |
26370096
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
三宅 博子 明治学院大学, 文学部, 研究員 (40599437)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 音楽療法 / コミュニティ音楽療法 / 多様性 / 参加 / 社会包摂 / 文化創造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の文化社会状況に即したコミュニティ音楽療法の成り立ち、理念と方法論を明らかにすることである。3年目となる平成28年度は、実践活動の調査分析を継続し、個々の事例について国内外の学会で発表した。 ①地域コミュニティの音楽活動の事例:多様な人が集う地域コミュニティの音楽活動「芝の家・音あそび実験室」を主宰し、参加者の多様性を生かす音楽活動のプログラム・参加の枠組み・活動の進め方について検討し、ヨーロッパ音楽療法大会で事例研究発表を行った。ここでは、参加者の多様性を生かす音楽活動の方法論として、参加者を包摂する枠組みをあらかじめ目的的に定めるよりも、参加者や状況に応じて参加の枠組みを柔軟に変化させることが創造的な活動につながったことを示し、コミュニティ音楽療法における参加の概念を再検討する視点を提示した。 ②重度重複障害のある青年との音楽活動の事例:重度重複障害のある青年と個人音楽療法を行い、異なる経験世界を有する参加者(対象者と音楽療法士)が互いの差異を接点に音楽活動をする過程を検討し、日本音楽療法学会で事例研究発表を行った。ここでは、音楽療法における参加の概念を、活動への参加を通じて一体感や共感を得る「参加による共同性の確認」ではなく、活動を媒介として互いに異なる経験世界を感知し新たな共同性の基盤を築く「参加による差異の感知と新たな共同性の(再)創造」と捉えた。 上記の事例研究からは、従来型の社会包摂とは異なる社会参加のありかたが見えてきた。それは、「社会で不利な立場に置かれた人が音楽活動への参加によって当該社会へ包摂される」社会適応的ありかたではなく、「多様な背景を持つ人々が互いの差異を持ち寄り、音楽活動を通して新たな共同性の基盤を築く」文化創造的なありかたである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は個々の事例の調査分析に注力し、従来型のコミュニティ音楽療法とは異なる文化創造的な参加のありかたという論点を導き出した。しかし、その論点から個々の事例を捉え返し、研究全体をまとめるには到っていない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見をふまえ、個々の事例を「多様性を生かす音楽活動」という視点から捉え返し、日本の文化社会状況に根差したコミュニティ音楽療法のありようをまとめる。そのための方策として、次の二点を行う。 ①文化創造的な参加の理念や方法論を具体的に明らかにするために、個々の事例における音楽活動の様相をさらに詳細に分析し、論文にまとめる。②本研究で扱う多様性と社会参加、文化創造の関係をより幅広い視点から検討するため、音楽療法世界大会で「コミュニティ音楽療法と社会包摂」をテーマにラウンドテーブルを開催する。とくに、中下流階層の音楽文化の特性や意味が支配階層の介入により変容する「音楽ジェントリフィケーション」の概念は、コミュニティ音楽療法における参加の問題とも深く関わると考えられる。文化創造的な参加のありかたと、文化創造という名のもとに支配階層の社会に包含されるありかたの違いを事例に照らして考察することで、研究の進展につなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究全体のとりまとめと成果発表を充分に行うため、研究を1年延長した。そのため、次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
国際学会での成果発表に伴う旅費、英文校閲費、研究のとりまとめに伴う文献費、印刷費等に使用予定である。
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