平成29年度は、3年間の予定だった研究期間を一年延長し、①地域コミュニティ拠点での実践活動の定着と展開 ②研究の成果発表、の2点に注力した。 ①実践活動の定着と展開では、東京都港区の地域コミュニティ拠点「芝の家」で、音楽ワークショップ「音あそび実験室」を計9回実施し、2~90歳代の述べ125人以上が参加した。活動3年目となる今年度は、「芝の家」という場や参加者に、より密着した形での活動を目指した。具体的には、参加者が持ち寄ったアイデアやコンテンツを活かす活動枠組みの設定、周年まつりの準備~開催後に至る一連の活動展開、参加者の希望を叶える形での地域イベントへの参加などを行い、参加者個々の特性や希望と地域コミュニティの活動とを結びつけることを試みた。 ②研究の成果発表では、第15回世界音楽療法大会で「コミュニティ音楽療法における社会包摂と排除」をテーマにラウンドテーブルを開催した。ここでは、従来のコミュニティ音楽療法が重視してきた「音楽活動への参加=社会参加」という見方を批判的に問い直し、立場や背景の異なる参加者間が相互に関係を変容するプロセスに目を向ける必要性を提起した。また、コミュニティ音楽療法や社会包摂の概念になじみが薄い日本の研究者・実践者がこれらの議論に触れる機会になったと思われる。現在、ラウンドテーブルから得られた知見に基づく英語論文を執筆中である。 研究期間全体を通じて、日本におけるコミュニティ音楽療法とは何かを考える土壌作りの一歩を踏み出すことができたと考える。日本のコミュニティ音楽療法は、社会政策的な背景や目的、コミュニティにおける個と集団の関係などが欧米とは異なる。社会的不利益を被る当事者の社会参加や権利擁護に必ずしも直結していない分、活動を介した参加者の対話と関係変容のプロセスには、多様な人々が協働する新たな文化や社会的価値観の創造に資する資源が内包されている。
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