研究課題/領域番号 |
26370098
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研究機関 | 秋田公立美術大学 |
研究代表者 |
池亀 直子 秋田公立美術大学, 美術学部, 准教授 (10359698)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 芸術教育 / 優生思想 / 社会的排除 / 社会的包摂 / 特別支援教育 / インクルーシブ教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代社会において「天才」「狂気」「障害」といった概念が形成される歴史的過程で、優生思想がいかなる影響力を持ったかを、特に近代産業社会における生産性と芸術的才能の関わりに絞って明らかにし、障害者と健常者の枠組みを超えた芸術教育のあり方について考察する3年間の比較思想史研究である。 研究1年目にあたる平成26年度は、まず国内の障害者に対する芸術教育の現状と優生思想の影響について資料収集のうえ分析を行い、その課題を「社会的排除」と「社会的包摂」という二つのテーマに分類した。 「社会的排除」のテーマについては、思想史研究と同時進行で、特別支援学校の授業観察および教員のアンケート調査、教職員との意見交換を通じ、障害児が日常的に芸術に触れる機会の有無や、芸術的才能を持つ障害児の教育支援における課題、芸術鑑賞や芸術活動の実施における物理的・心理的障壁の詳細について事例を集約した。 「社会的包摂」のテーマについては、特別支援学校中学部生徒と美術大学の学生によるアートを媒介とした社会参加を目的とする交流学習、および特別支援学校生徒と保育園児のアートワークショップ交流における観察調査を実施した。特に後者のアートワークショップ交流では、これまで集団活動への参加が困難であった重度自閉症児の参加を実現させることができ、貴重な実践事例を得た。観察結果と分析は2回の学会で報告済であり、今後論文として公開する予定である。 また、盲学校で美術教育を実践した元教員や全盲の現代アーティストらと障害者の芸術教育について意見交換のうえ講演会・ワークショップを実施し、研究成果の一部を一般市民に還元した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究実施計画にあった、1.障害者をめぐる優生思想の動向および芸術的才能の育成に関する国内資料の収集、2.特別支援学校における芸術教育の授業観察および分析結果の報告(学会報告2回)、3.障害者の芸術的才能の育成に関する専門家との意見交換、4.特別支援学校におけるアンケート調査について計画通り実施したことから、おおむね順調に進展していると考える。 なお3について、当初から招聘予定だった専門家による講演会に加え、その教え子である全盲のアーティストを招聘し意見交換とワークショップを行うことができた点で、当初の予想を上回る成果を得た。また4について、同時に実施予定であった保護者へのインタビュー調査を対象者の事情により平成27年度に見送ったが、調査が次年度にずれ込んだ場合にも研究遂行に支障が出ない研究計画、予算計画を当初より立てている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の実施状況が順調であったことから、今後もおおむね研究実施計画通りに推進する。 研究2年目にあたる平成27年度は、1.芸術的才能を持つ障害児の保護者に対するインタビュー調査、2.重度自閉症児の参加を可能にしたアートワークショップの環境構成に関する学会報告、3.平成26年度に実施した教員アンケート調査の分析・報告、4.イギリス19-20世紀における優生思想の展開と芸術に対する影響の資料収集と分析、5.近代日本における天才・狂気と優生思想に関わる資料収集と分析の5点を中心に研究を推進する。 1のインタビュー調査は前年度実施を平成27年度実施に変更したが、当初より報告を3のアンケート分析結果と統合する予定であり、研究遂行には支障が出ない見込みである。2の学会報告は、前年度に重度自閉症児のワークショップ参加という貴重な成果を得たことから、物理的・心理的障壁を取り除いたワークショップ環境の構成について「社会的包摂」の観点から新たに報告を行うこととする。3,4,5については当初の研究計画通りに実施するものとする。
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