本研究は、近代社会において「天才」「狂気」「障害」といった概念が形成される歴史的過程で、優生思想がいかなる影響力をもったかを、特に近代産業社会における生産性と芸術的才能の関わりに絞って明らかにし、障害者と健常者の枠組みを超えた芸術教育のあり方について考察する3年間の比較思想史研究である。研究の最終年にあたる平成28年度は、平成26、27年度の研究成果を統合し、最終成果の公開に向けた研究の取りまとめを行った。 研究成果の統合と公開に向け、平成26年、27年に学会で発表した研究成果の概要と平成26年に実施したワークショップ及び講演会の記録を再編集した。また研究協力者と打合せを行い、最終報告に対し19世紀の音楽分野における芸術教育と「神童ブーム」、イギリスにおける子ども向けコンサートに関する研究論文の寄稿を得た。 平成26年度より分類している「社会的排除」と「社会的包摂」のテーマに沿い、「社会的包摂」のテーマに関しては前年度に学会で報告した保育園児と特別支援学校中学部生徒のアートワークショップ交流の成果を学会誌に掲載した。また平成27年度に学会誌に投稿し掲載が確定していた特別支援学校中学部生徒と美術大学の学生によるアートを媒介とした社会参加支援に関する成果論文が公開され、学会の論文・著作奨励賞を受賞した。 「社会的排除」のテーマに関しては、平成27年に学会発表を行った特別支援学校教員アンケートの分析に関する報告、及び平成26-28年度に収集した国内外の優生思想に関する資料の分析を統合し、フランシス・ゴルトンやイギリス優生教育協会の思想・動向と近代産業社会における芸術才能の位置づけについて論考をまとめた。 上記の平成26-28年度の成果を合わせた最終成果報告は、平成29年度から稼働を開始し、同年7月頃までに個人利用が可能となる秋田公立美術大学機関リポジトリにて公開する予定である。
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