研究課題/領域番号 |
26370104
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研究機関 | 宮城学院女子大学 |
研究代表者 |
太田 峰夫 宮城学院女子大学, 学芸学部, 准教授 (00533952)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ハンガリー音楽 / ナショナリズム / 「ジプシー音楽」 / ヴァイオリン / ツィンバロム / フランツ・リスト / ヨーゼフ・ヨアヒム / ベーラ・バルトーク |
研究実績の概要 |
二重君主国時代の「ジプシー楽団」の国外での演奏活動について資料を集め、ヨアヒムのような国外のハンガリー出身の音楽家が「ジプシー音楽=ハンガリー音楽」の評価に結果的に「お墨付き」を与えていたことを明らかにした。また、20世紀初頭の音源を用いて、当時の「ジプシー音楽」の演奏スタイルが同時代の藝術音楽のヴィルトゥオーソ(名人)達のそれと部分的に重なる特徴を持っていたこともつきとめた。こうした成果に基づき、2016年6月にボストンの国際学会(Joseph Joachim at 185)に参加し、ヨアヒムと「ジプシー音楽」について発表し、一定の評価を得ることができた(発表言語は英語)。ヨアヒムについては4月に東欧史研究会でもヨアヒムとハンガリーの文化ナショナリズムとの関係について発表を行い、その成果を研究会の機関誌に寄稿できた。 また本年度は国外の音楽家の中でも、「ジプシー音楽=ハンガリー音楽」の通念の定着に最も大きく貢献した人物と言えるフランツ・リストを取り上げ、彼の1850年代の著作『ジプシーとハンガリーにおける彼らの音楽』を読み込み、それをもとに彼の「ジプシー音楽」観やツィンバロム観について論文を執筆した。執筆の過程で、リストの「ジプシー音楽」観とハンガリー国内の音楽家達のそれとの間の見解のずれが鮮明になってきたことから、年度の後半に二重君主国時代のハンガリーにおける「ジプシー音楽」の受容状況について様々な一次資料を渉猟した。これについての研究成果は来年発表することとしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リストとヨアヒムという、ハンガリー出身ではあるものの、主に国外で活動を行なっていた音楽家達の「ジプシー音楽」観について論文を発表できたことは、「ジプシー音楽=ハンガリー音楽」という通念の形成史を考察する本課題にとって、大きな成果だった。 特にリスト論文において著書『ジプシーとハンガリーにおける彼らの音楽』を主な題材にしつつ、フランツ・リストの「ジプシー音楽」観をツィンバロム観とともに論じることができたこと、続く世代のハンガリー人音楽家達の「ジプシー音楽」観との間にある認識のずれに踏み込んで論じることができたことは、今後の研究の足がかりになりうる出来事だったと考える。今後はこの議論をリスト研究や他の音楽家の研究と関連づけながら、拡張していくこととしたい。 ボストンで口頭発表を行い、ヨアヒム研究の最前線においてこの領域の研究が強く求められていることを実感できたのも、励みとなった。ヨアヒムとハンガリー音楽との関係が、指導的なハンガリー人作曲家との交流だけでなく、「ジプシー音楽」ないしその奏者であるロマの音楽家達との交流のレベルまで及んでいることがわかった点でも、有意義な研究ができたと考えている。ただし、細かく見れば、言説のレベルについても、楽譜・演奏のレベルについても、資料を十分に渉猟しきれたわけではない。残された時間を使って細かい部分をもう少し詰めて、論文化できれば、おそらく新しい視野がひらけてくることだろう。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究課題の最終年度にあたるので、研究成果を一通りまとめ、学術論文として発表することを目指す。具体的には1.昨年度ボストンで発表したヨアヒムと「ジプシー音楽」との関係に関する研究の論文化(英語か日本語)、2.ヨアヒム、ヴィニアフスキ、エルンストなど、19世紀中葉のヴァイオリニストたちの作品を主な素材としてこの時代の人々の「ジプシー音楽」観を扱った研究発表を国内学会で行うこと、3.2.の成果の論文化が本年度の主要課題となる。 時間は少ない。しかし2.の発表を一つ、丁寧に行うことに集中すれば、年度内の論文化も見えてくるだろうし、2.の準備と1.の論文執筆作業は同じ問題意識に支えられた、一つながりの作業とも見ることができるので、ぶれることなくこれを実行に移したい。 このほかに時間的な余裕があれば、派生的なトピックとして4.(ヨアヒムと親交のあった)ブラームスと「ジプシー音楽=ハンガリー音楽」との関係の整理、5. リストと彼のサークルの間での「ジプシー音楽」観、6. オペレッタとハンガリーの「民衆劇」における「ジプシー音楽」の音楽様式上の役割、および舞台上でのその表象のあり方をめぐる研究を行う。当初の計画と比べるとここまでの研究はヨアヒムとリストに考察の対象が絞りすぎてきたきらいがあるので、4.と5.においてはこれまで蓄積を活かしつつも、より視野を広げていきたい。また、6.にあるように、より大衆的なレベルでの「ジプシー音楽」受容についても一定の調査を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に楽譜資料の購入を検討したものの、注文時期が遅くなったため、年度内に入荷できる見込みが立たなかった。そのため一旦注文を断念し、新しい会計年度に入ってから処理することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
当該助成金(「次年度使用額」)を物品費に組み入れ、楽譜資料・文献資料の購入費に充てる。
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