研究実績の概要 |
イタリアの人文学者メーイ(Girolamo Mei, 1519-1594)の手紙28番, fol.209rに見られる諸芸術の分類表につき,そこに表明された思想を芸術理論の歴史に定位し,また彼の劇音楽論全体におけるその位置づけを見極めるのが,本研究の目的であった. 平成26年度の研究では,基礎作業として,28番を含む手紙4通の翻刻・日本語訳・注釈を収める単著『メーイのアリストテレース『詩学』解釈とオペラの誕生』(勁草書房刊)の出版に力を注いだ. 本の出版と並行して進めた研究により,上記手紙の諸芸術分類表がバトゥの芸術論(1746年)に最も近いことが判明した.すなわちまず外延的に見て,バトゥの挙げる絵画,彫刻,舞踊,音楽,詩はメーイの分類にほぼ重なる上に,内容的に,メーイは音楽を詩とは独立・対等の芸術と見ており,この点でもバトゥの思想と一致する.メーイが音楽の詩からの自立を唱えることができたのは,同じ歌詞と音関係をもつ歌が異なる旋法において歌われる場面において,その旋法の本質が音の高低にあると彼が考えたからである.つまり,激した人が高い声で話し,疲れた人が低い声で話すのと同様,高い旋法が激しい情動を表わし,低い旋法が弛緩した情動を表わすのは,自然の摂理に基づいているというのである.こうして,音楽はもはや言葉の添え物ではなく,独立の原理に基づいて情動喚起をなすものとされる.メーイが『古代旋法論』で強調する古代悲劇の強い情動喚起作用は,このような音楽の力,具体的には高低を本質とすると彼の解釈する旋法の力によることになる.
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