研究課題/領域番号 |
26370111
|
研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
小坂 直敏 東京電機大学, 未来科学部, 教授 (20366389)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 音の音 / 階層的な音合成 / レクチャーコンサート / 構造的音色 / 混声音 / サウンド・ハイブリッド / NMF |
研究実績の概要 |
今期は、「音の音」という名称で定義している構造的な音色に関して、1)この概念を導入した合成音を用いての音楽楽曲の制作、2)同合成音色の精緻な工学的合成手法の検討についての2検討を個別に進めた。 1)について、26年度に発表したオーケストラ作品「音の音」の弦楽部の主題を基として、これに筆者の「いろはうた」の朗読音をクロス合成(混声音:Sound Hybridization)を行い、弦楽器が喋る合成音を作成した。この混声音は、ひとつの音が別の音の側面を持つ、という意味で、構造的音色のひとつである。この合成音の実現に際しては、LPC(線形予測符号化)により、朗読音声を音源部と音韻フィルタに分解し、音源部を捨てて、弦楽器と入れ替え、これに得られた音韻フィルタを畳み込んで合成した。 この手法は技術的には湯浅譲二の「世阿弥による九位」により89年に達成されたが、そのときの音質に対する要求条件は明確にされていたわけではない。つまりクロス合成はどういう音であるべきか、との議論はない。今回の合成では、明瞭性を上げるほど、全体の印象が弦楽器から遠くなり、喋る弦楽器、というよりしわがれた音声、という印象に近づいていく。そこで、上記の混声音に基の弦楽器音を混合(ミックス)して目的の合成音とした。この音声を含む楽曲「ハイブリッド・コラージュ-ピアノとコンピュータのための)を制作し、10月16日すみだトリフォニー小ホールにてMedia Projectという企画で作品発表を行った。 2)については、NMF(Non Negative Matrix Factorization)に基づいた音源分離手法を応用し、ひとつの音を数多くの楽音の融合した合成音をみなし、ひとつの音であってもこれを数多くの楽音に分離する検討を行った。これは、ひずみ音が混入してしまい、。現在音質面で音楽応用を行えるレベルに達していない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
通常は、応用する技術を達成してデモとしての作品発表を行うが、本課題では、構造的音色、という概念の啓蒙もあわせて行いたいため、技術の達成レベルが低いところでも作品発表を初年度から行ってきた。その意味では、2年目にあたる平成27年度は、作品発表と、本来使われるべき開発された技術とが、やや位相がずれており、作品発表時に用いた技術自体は今回新たに狙う技術より1世代古いものとなっている。2年目に開発技術を作品に応用できなかった意味ではやや進展が遅れている。 最終年度は、NMFを用いた上での構造的楽音の合成手法について検討を進め、これを楽曲に応用できるよう進めるつもりである。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度はNMFを用いた構造的音色の合成手法についてより深い検討を行う。通常のNMFは混合音に関するスペクトログラムを周波数×時間軸上の対数強度の3次元データを、規定となる楽器毎のスペクトルと、その時間軸上のアクティベーションの積として分解するが、この問題は、その中で楽器音については、すでに知られている楽音のスペクトルを利用する、というより簡単化された問題設定とする。しかし、いつどのように組み入れるか、という問題は必ずしも簡単ではない。すなわち、楽音のスペクトルは時間とともに変わらない、とするNMFが設定している仮定と、実際の楽音の時間変化するスペクトルの特性とは異なるため、NMFに実際のスペクトルを組み入れる方法そのものを具体的に検討する必要がある。 本年はこのような方法で構造的な音色合成を行う。 一方、このような技術の啓蒙と作品発表は9/30のJSSA音楽祭2016でのSonic Arts Festival Vol.4 No.1にて、Violinとコンピュータのための作品によりデモを行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
誤差の範囲である。
|
次年度使用額の使用計画 |
消耗品に使用する。
|
備考 |
(1)は研究者全体のホームページこの中での記載がある。
|