本研究は、まず構造的音色の合成方式の提案と、これを応用した新たな音楽により、この概念を啓蒙する2面を持っている。これまでに知られている音のモーフィングやサウンド・ハイブリッドに「音の音」と新たな概念を加えて、全体を構造的音色と名づけて、新たな音色の概念とした。音の音は、一つの音色の合成に、別の音色を使う方法だが、サウンド・ハイブリッドと異なる点は、階層的な構成をとり、下位の音色を明確に識別できる音色と定義している。例えば音声をフルート音で構成するのに、下位のフルート音が明確に認識できるものである。 この考えを実現するため、音源分離で用いられているNMF(Non Negative Matrix Factorization)を応用して音声をViolin、尺八などの音で再合成する方法を提案した。ただし、音声の音韻の明瞭性と、構成要素としての下位の楽音の高い明瞭性を同時に満たすことは困難であった。音の音に対する技術的発表は2017年3月に情処全国大会に発表した。また、音楽美学的意義について、EMS(Electro Music Studies Network) 2017に採択され発表する予定である。今後は、音韻性のみならず、ある楽器の奏法を別の楽器の短時間奏法の集合物として表現する方法を検討していく。 併せて、構造的音色の音楽作品への応用とその発表、啓蒙を行った。2014年12月にはオーケストラ作品「音の音」で、弦楽器の音色で話す合成音を意図し「いろはうた」の朗読音のピッチ系列からなる弦楽の主題を作成した。次の2015年、この弦楽部の音を音源とし、これに先の「いろはうた」の音声から音韻性を付与した「音の音」をコンピュータ合成音として、これにピアノ演奏をかぶせた作品として、同年10月すみだトリフォニーホールと翌2016年6月にNYCEMFで発表した。
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