研究課題/領域番号 |
26370112
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 楽琵琶 / 古楽譜 / 唐楽 / 復元 / 三秘曲 / 国際研究者交流 / 中国 |
研究実績の概要 |
研究実施計画には、次の項目を掲げた:1.新出の宮内庁書陵部蔵「琵琶譜」の史料調査;2.『三五中録』の史料調査;3.琵琶譜(『天平琵琶譜』、『源経信筆琵琶譜』、『三五要録』巻第二)の翻刻と五線譜化;4.琵琶奏者との打合せ、意見交換。1は未着手だが、2・3の史料調査と翻刻・五線譜のディジタル化は進んでいる。4は費用を要する打合せはまだ実施していないが、平安時代の琵琶秘曲の復元演奏を行っている研究者との意見交換を行っている。 楽譜の解読から得られた結果を復元試演するには、楽譜に記されない、演奏に関わる様々な要素を知っておく必要がある。従って、2015年10月から、国文学・音楽史学の研究者7名による研究会を立ち上げ、鎌倉期成立と見られる筆録者未詳の琵琶師説集である『胡琴教録』の諸本研究及び講読を続けている。当時の琵琶の演奏伝承に関わる諸問題を明らかにするとともに、問題の多い流布本(『群書類従』管絃部)に代わるテキストの作成を目指している。 研究成果の発信に関しては、浜松市楽器博物館20周年記念行事の一環として開催されたレクチャーコンサート「甦る唐代琵琶譜の音楽~古代シルクロード・敦煌から正倉院へ~」(2015年5月24日)では、琵琶独奏曲《黄鐘調緒合》・《黄鐘調二手》を取り上げて、『天平琵琶譜』の内容を改めて実演で明らかにした。また、年度を跨がるが、2016年4月16・17日に上海音楽学院で開催された「中国と東アジア国際古譜学シンポジウム」では、「日本唐楽の古楽譜資料による復元演奏の試みで見えてきたこと」(基調講演)と題して、中国から伝来した唐楽の楽譜(文字譜)を3系統に分類し、特に琵琶・笙・五絃琵琶で共通に用いられる系統の起源について新説を提唱するとともに、主に琵琶の古楽譜を典拠とした復元試演で得られた知見から、唐楽の独奏曲(特に秘曲)及び合奏曲のリズム的特徴を中心に論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究の遂行が遅れている主たる理由は、やはり平成27年度に実施しようと計画したレクチャーコンサートを、平成28年度に繰り下げることになったことによる。 研究実施期間の初年度に入って、国際音楽学会(International Musicological Society)の世界大会(World Congress)が2017年3月19~23日に、東京芸術大学を主な開場に開催されることになったことを知った。それで上野学園大学日本音楽史研究所の福島和夫氏、新井弘順氏、櫻井利佳氏、及び東京学芸大学の遠藤徹氏の協力を得て、Reappraising the early history of _gagaku_ and _shoomyoo_: Reception and adaptation of music from the Asian mainland in ancient and medieval Japan(「雅楽と声明の初期の歴史の再検討─古代・中世の日本におけるアジア起源の音楽の享受と適応─」)と題するラウンドテーブルを計画し、全体の責任者・まとめ役として2016年1月に応募した。ラウンドテーブル採用の通知が届いたのは4月28日であったが、これで漸く研究計画の最終的な実施の形が具体的に見えてきた。 このように、世界大会参加が決定したのは2016年4月28日だったので、それまでの流動的な状況の中で費用の支出を控えていたが、参加が決定したので、今後は支出を計画的に進めていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のラウンドテーブル(実演付き)に加えて、3月22日に、上野学園大学の石橋メモリアルホールにて、レクチャーコンサート ‘Tang music’ and Buddhist chant: Research-based ‘re-productions’ and current performance practice(「唐楽と声明─研究による再現と演奏伝承─」)と題して、古楽譜による再現演奏(琵琶と笙の独奏曲、平安時代前期の楽器編成による合奏曲)及び現在の演奏伝承による声明を上演する見込みとなった(最終決定は世界大会のプログラムが決まる6月末日)。因みに、3月21~23日には、上野学園大学日本音楽史研究所の所蔵史料による日本音楽史料展が開催され、研究代表者は英語による解説(3月21日)を行う予定である。なお、世界大会の用語には日本語が含まれていないため、研究代表者は協力者の和文原稿などの英訳もすべて担当することになった。 このように、レクチャーコンサートを平成28年度に繰り下げて行うことになったので、本来計画していた4段階から成るプロセス(※)の②から④を最終年度に行うことになるが、スケジュールの都合上、レクチャーコンサートに先立って小規模な研究会で②の試みを行い、レクチャーコンサートを総仕上げとして位置づけることとしたい。(※①打合せの場で楽器奏者に解読研究の結果を提示し、共同作業で演奏する内容[演奏用楽譜]を決める。②「再生」を舞台上で試みる。一度演奏を試みた後、③改めて奏者と相談の場を設け、相互的フィードバックを参考に楽譜の調整を行う。最終的な調整の結果を④録音・録画して、視聴覚資料として保存し、後の発信に備える。)
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に行う予定だった史料調査及び琵琶古楽譜の翻刻・五線譜のディジタル化を、平成27年度・28年度まで遅らせることとしたので、物品費、人件費・謝金、その他の費用、及び旅費の一部が余る結果となった。また、国際音楽学会の世界大会での研究成果発表が可能になるかどうか未定であった流動的な状況の中で、諸費用の支出を控えていた。結果的に平成27年度に予定していたレクチャーコンサートを28年度に繰り下げることになったので、その関連費用も余る結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
基本的に各費用を年度を繰り下げて使用することにするが、国際音楽学会の世界大会にて研究成果を披露することになった関係で、幾つかの変更が必要になる(金額の単位は千円)。まず、計上してあるコンサートホール借上げ費用(467)は、レクチャーコンサートが上野学園大学との協力の下で行われることになったので、かからない見込みとなった。これを1.小規模研究会の会場の費用(未定)に充てるとともに、2.RAが同時に入力作業を行うことができるように、ラップトップのパソコンを1台(224)購入する。次に、本研究と関連性の強い、これまでの研究代表者の研究成果を、中文に訳して中国の専門雑誌の掲載に備えるために、翻訳料の予算を倍にする(240)。研究成果発表のために既に1回中国(上海)への出張を行った(本年4月)が、機会が得られれば演奏者1・2名を伴った出張を行いたいと思う(400)。但し、現時点では未定。
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