研究課題/領域番号 |
26370116
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小林 信之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30225528)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 創造性 / 美的なもの / アイステーシス / 詩作 / 西田幾多郎 / 間文化性 / ポイエーシス |
研究実績の概要 |
西田幾多郎の「創造性」に関する思想、とくに彼の時間論と詩論を2015年度には集中的に研究した。すなわち「瞬間とポイエシス」をテーマとする研究であり、その概要を以下に記す。 この世界に生起する出来事にはつねに「変化」が前提されるとすれば、プラトンが『パルメニデス』で語ったように、ある状態から別の状態への移り行きにおいて、切断の瞬間(「突如」exaiphnes)を想定せねばならない。この瞬間は、動と静のあいだに座を占め、それ自身時間に属していないために、わたしたちの理解可能性の地平において、事後的な痕跡として、あるいはたえず失われゆく仮象として、思惟されるほかない。ところでこのように切断であり非連続である瞬間のうちに、仮象の否定性を見るのではなく、むしろそれを転倒させ、そこに「永遠のアトム」(キルケゴール『不安の概念』)を見てとるような思考の系譜があり、西田幾多郎もまたそこに位置づけることができる。このように非連続を連続へと転じ、時間そのものを生起せしめる力の場、そこにこそ創造的な飛躍が成就している。つまり西田哲学における創造作用としてのポイエシスとは、隔絶した個的現在を連続性へと架橋することであり、両者の矛盾的関係をその自己同一性において行為的・制作的に直観することである。そしてこのとき重要なのは、そうした直観が同時に詩的経験の原初性に根ざしていることである。詩的言語の特異性は、たとえ紋切り型の使い古された言葉であっても、それを字義どおりに理解 することで完結するのではなく、その言葉を享受する者にとって、つねに一回的経験へと個別化していく点にある。わたしたちは、わたしたちが言葉に自己を仮託するもっとも基礎的な働きを詩のうちに見いだすことができるとともに、勝義において、作る働き(ポイエシス)そのものの原質にふれているのだといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に記したように、本年度はとくに西田幾多郎の哲学における「創造」性の問題に焦点をあてる研究に力を注いだ。西田哲学において創造作用は、古代ギリシア哲学のポイエシスの概念から考えられている。すなわちこの意味での創造とは、西田において、とりわけキルケゴールに由来する「瞬間」の概念と連関しており、断然ないし非連続と連続性との架橋こそが創造作用の意味なのである。また同時にポイエーシスは、もちろん広く文芸に関わる人間の営みの根源であり、とくに抒情詩が重要な意味をもっている。この点に関する西田の見解をも考察した。以上の研究内容は、2015年7月26日に京都工芸繊維大学において開催された西田哲学会のシンポジウムにおいて公表し、論文として西田哲学会『年報』に掲載される予定である(すでに校正済み)。 なお、近代日本における美学・文化哲学領域にかかわる研究としては、西田を中心とする京都学派の研究を深化させていくと同時に、「美的なもの」に関するカテゴリーの分析が重要であり、この点に関しては、アエステーシス概念をあらたに解釈する方向で研究を進めている。この研究成果は、2015年11月美学会全国大会におけるシンポジウム「アイステーシス再考」において公表した。 このように現段階における研究は、創造性、詩、アエステーシス(美的カテゴリー論)の各テーマに重点をおいて、近代日本の美学・文化理論を考察していくものである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでも、単に近代日本の美学・文化哲学だけで完結した研究にとどまらず、とくに西欧思想との連関のなかで考察してきたが、今後も、そうした間文化性の視点からの研究を続行していく。2018年度は、9月に、ハイデガーの芸術思想に関する研究フォーラムが予定されており、それに参加し、研究発表をおこなう予定である。その折に、ドイツの哲学者ギュンター・フィガール教授が来日するので、間文化性に関わる研究の意見交換をおこない、具体的な研究に結び付けていく予定である。本年度は、3年間の研究の最終年度に当たるため、これまでの研究の全体を収斂させ、深化させていくつもりである。所属研究機関への論文の投稿がすでに確定しているので、まずその執筆に注力する。
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