研究課題/領域番号 |
26370120
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研究機関 | 京都造形芸術大学 |
研究代表者 |
上村 博 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (20232796)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カトルメール・ド・カンシ / 感性 / 19世紀 / フランス / 文化財 / 風景 / 郷愁 |
研究実績の概要 |
平成26年度は特にフランスでの文化財制度の成立期において、「場所」の意識がどのように関与したのかを考察した。歴史記念物委員会や国家的な美術館が形づくられるにあたって、フランスでは二とおりのしかたで場所と芸術の関係が語られていた。ひとつは芸術作品を普遍的な文化の所産として、特定の土地と必ずしも結びつけないしかたで語ることである。これはいわば「美術館的」な見方であり、そしてとりわけナポレオンによる芸術作品の収奪と中央美術館での展示として未曾有の形で(また厳しい批判とともに)実現した。もうひとつは芸術作品の地域性を強調するもので、これは18世紀の末に生まれ、ロマン主義や旅行の流行とともに19世紀を通じて広まってゆく。この二つの見方の成立と根拠をつぶさに調べた結果、それらはいずれも近代的な作品概念が生み出したもので、「作品」と「作品の置かれる場所」という問題につながる、ということを確認した。 一方、年度途中で、あらたに特に集中して調べなくてはならない話題が発見された。それはスイスに代表される山岳風景、田舎の風景への関心である。ルソーやセナンクールらが都市文化と対比的に称揚したスイスの風景はただ一地域の景観の愛好というだけでなく、「郷土の病」Mal du pays (ノスタルジー)という現象を社会的に認知させ、また故郷、生まれた土地、本来のすみかといったさまざまな場所にかかわる観念を発生させている。これは芸術作品の文化財制度化と表裏の関係にあることが予想される。平成26年度は当初専ら文化財制度を扱う予定であったが、風景の問題にも範囲が拡がった。ただしこれは平成27ー28年度の主たる研究テーマと強い関係性を持ち、今後の展望をもたらすものでもあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画は年度前半はおおむね順調に進行したが、「実施の概要」に記したとおり、年度の後半になって、「郷土の病」Mal du pays (ノスタルジー)という現象の発見と流布の過程を調べることに時間をかけた。そのため当初の予定は遅れたといわざるをえない。しかし、平成27年以降の研究にとってはむしろ計画の促進につながることであることが期待され、有益な迂回だと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は基本的には当初の計画どおりすすめたいが、平成26年度での研究を踏まえ、若干の変更を予定している。27年度には場所性を特に美術館に関して考察するはずであった。しかしロマン主義的な芸術観に風景や場所の問題が大きく関わっていることを踏まえ、美術館の問題だけでなく、それを美術館外での感性的な経験とも対比的に考察してゆきたい。それがまた28年度に予定されている植民地や観光の問題ともよりよく接合することが期待されるからである。
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