本研究では、19世紀のフランスで芸術作品の制作と受容にあたって、場所への関心がどのように機能していたのかを考察し、以下の知見を得た。1)美術館に代表される芸術の自律的空間が確立する一方で、芸術と土地や場所との関係性を重視する傾向は根強く、文学や美術の主題として土地が好んで選ばれたが、そこには、自己のアイデンティティを土地やコミュニティに帰属させる思想の浸透が大きく関与していた。2)また、近代的な都市生活者の自己疎外感が、旅行とならんで芸術表現においても、特定の場所の経験を真正な生として追求させた。
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