研究課題/領域番号 |
26370121
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
服部 正 甲南大学, 文学部, 准教授 (40712419)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アウトサイダー・アート / アール・ブリュット / 障がい者アート |
研究実績の概要 |
本年度は研究の一環として、パリにおいて開催された「アウトサイダー・アート・フェア」に特別展示された澤田真一作品の調査を行うとともに、澤田が所属する第二栗東なかよし作業所陶芸班での陶芸活動の実態に迫るために、作業所が3日間にわたって行う窯焼きの作業に立会い、作品の焼成過程の実地調査を行った。海外での調査においては、澤田作品に対するコレクターの強い関心を理解するうえで重要なデータを収集するとともに、関係者に対する聞き取り調査では、障がい者の創作活動に対する近年の評価の動向についても貴重な情報を得ることができた。また、窯焼き作業の現場では、創作の支援を行っている多くの関係者に対して、聞き取り調査を行うことができた。 本研究を計画した当初と比較しても、障がい者の創作活動に対する関心はますます高まっている。2015年11月には、東京オリンピック・パラリンピックに向けて障がい者の芸術文化振興施策を進める東京都が、都の芸術文化評議会に「アール・ブリュット検討部会」を設置し、都内に作品展示機能を持つ拠点を整備する方向で検討を進めるなど、国家的な政策のレベルで、障がい者の創作に対する取り組みが進められている。よって本研究の目的を遂行するためには、象徴的な役割を果たしている澤田作品にとどまらず、より広い視点から障がい者の作品の評価の諸相を調査し、澤田作品の評価のあり方を相対化する必要が生じてきた。そのような観点から本年度は、各地で行われている障がい者の作品を含む展覧会の調査や、地方自治体などが主催する障がい者を対象とした公募展の調査のほか、福祉事業所で行われている創作活動を支援する関係者への聞き取りなどを精力的に行った。それらの成果は、澤田真一の評価に対する考察を下支えする重要な基盤となるものといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主要な目的である知的障がい者の創作活動に対する評価の聞き取り調査は、国内外において、おおむね順調に進展している。特に国内では、調査研究の過程において東京藝術大学や金沢美術工芸大学などの美術大学において障がい者の創作支援に取り組んでいる研究者とのネットワークを構築できたことが大きな成果だった。また、国内のいくつかの公立美術館が障がい者の創作物を評価する取り組みを始めているが、そのような美術館とも緊密な連携と調査における協力関係を築くことができた。それらの協力関係によって得られた知見は、当初の計画以上の成果といえる。 一方、澤田真一の作品調査に関しては、調整すべき課題も多く、やや当初の計画よりは調査と研究が遅れ気味である。それは、作品の所有者や著作権管理者など、作品に関する権利関係者との間の調整に思いのほか時間がかかることが判明したためである。日本の障がい者による創作物に対する関心は、日に日に高まっている。急展開する状況の中で、慎重に状況を見極め、時には立ち止まって見守らなければならない場面もある。しかし、その経験のひとつひとつが、「評価手法の確立」のためのステップであるとも考えられるので、引き続き慎重に経過を見定めながら研究を遂行したい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、国内での作品調査において、計画の練り直しを行い、より効率的で効果的な研究を行いたい。上述のように、澤田真一の作品については急速に権利関係がデリケートなものになっている。現状において可能な範囲で澤田作品の調査を進めながらも、澤田と同じように国外で高い人気を誇る小幡正雄や本岡秀則の作品調査も同時に行い、包括的な視点から知的障がい者の創作物の評価を行う際の問題を抽出したい。障がい者の創作活動に関わる支援者や、展覧会の企画に関わる美術関係者への聞き取り調査も継続したい。 海外での聞き取り調査については、障がい者の創作物の市場としては世界最大のものであるニューヨークのアウトサイダー・アート・フェアを調査し、関係者との面談による聞き取り調査を進める予定である。これまでと同様に、積極的な情報収集を行いながら、適切な時期を見計らって効果的な調査を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内調査において、澤田作品の調査回数が計画よりも少なかったため、当初の計画と多少の誤差が生じた。研究成果の還元について、研究会等の開催に代えて、印刷媒体への寄稿というかたちを取ることが多かったため、謝金等の使用においても誤差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き、国内外での聞き取り調査や文献的調査を進めるとともに、研究会等により研究協力者からの助言も求めつつ、計画をブラッシュアップしながら遂行する予定である。
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備考 |
その他の社会への研究成果の還元として、以下が挙げられる。 服部正「山下清―生誕から終戦まで」『花美術館』42号、6-20頁;服部正「ランディスを観る、三人で。」『美術館を手玉にとった男』トレバノ、21(16-17);服部正「事業によせて」『障害者の芸術活動を支援する新進芸術家育成事業とその育成を芸術系大学において行う基盤構築のための調査事業』東京藝術大学美術学部、金沢美術工芸大学、37(40)
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