研究課題/領域番号 |
26370121
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
服部 正 甲南大学, 文学部, 准教授 (40712419)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アウトサイダー・アート / アール・ブリュット / 障がい者アート |
研究実績の概要 |
本年度は、研究の一環としてデンマークのシルケボー市のシルケボーベル・アートセンターで開催された大規模な障がい者の展覧会「A special touch - lige fra hjertet(心からの、特別な触れ合い)」に招待展示された本岡秀則氏の作品を調査するとともに、デンマークにおける障がい者の作品の評価の動向について、関係者からの聞き取り調査を行った。障がい者の作品を芸術の文脈で評価することの重要性と、障がい者本人の社会的支援や人権の擁護という問題のバランスは、現在では世界的な問題であることが改めて確認された。 本年度はまた、「障がいのある人の創作活動――実践の現場から」と題する公開研究会を行い、日本各地で先進的な活動を行っている障がい者のための創作アトリエで主導的な役割を担っている実践者を招き、活動の内容や意義について、この分野の研究者も交えて議論をおこなった。また、研究代表者が所属する学会においても、障がい者の創作活動に焦点を当てた研究例会を企画し、自らも発表を行うとともに、若手の研究者を招いて発表の機会を提供し、この分野の研究の発展に寄与した。さらに、各地で開催される障がい者の作品の展覧会の調査も継続的に行い、現状の分析に努めた。 障がい者の関心活動に対する関心は、政策的にも、学術的にも、あるいは教育的にも、ますます高まりを見せており、研究代表者も様々な研究会やシンポジウム等に出席して発言を行うとともに、この分野に関心をもつ多くの関係者と意見の交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主要な目的である知的な障がいのある人の創作活動に対する評価の聞き取り調査は、国内外ともにおおむね順調に進展している。特に今年度は、デンマークの障がい者のための創作アトリエで包括的な調査を行えたことが大きな成果だった。 一方、澤田真一の作品調査に関しては、権利関係の調整などと、澤田氏をめぐる国内の評価環境の想定外の変化から、十分に調査を進めることができなかった。他方で、本岡秀則や小幡正雄という、澤田氏と並び称される作り手の作品については、予想外の調査や研究を行うことができた。これらを組み合わせることで、障がい者の評価手法の確立について総合的な取り組みを行う必要があるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては、研究対象の中心に据えた澤田真一の作品調査において、十分に作品にアクセスすることを阻む想定外の社会的、政治的状況が生じている。他方で、本研究を進める過程では、澤田真一と同じく日本を代表するアウトサイダー・アーティストである本岡秀則や小幡正雄について、予想を上回る大きな研究成果を得ることができている。それらを総合しながら、最終年度に向けた研究の取りまとめを行って行きたいと考えている。 特に小幡正雄については、本研究の成果によって国内外の美術館や画廊の間で急速に評価が高まっている。この間の経緯を正確に分析することは、本研究の最大の課題である障害者の創作活動が芸術として評価される過程を分析する手法の確立に大きく貢献するものと思われる。それらの成果と、引き続き限られた条件の中で最大限に取り組むことになる澤田真一の作品評価についての研究を重ね合わせることで、当初計画していた以上の研究成果を得ることを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
51円の残高は、計画通りの執行における誤差の範囲と考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
51円の残高は、計画通りの執行における誤差の範囲と考えられる。
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