本研究は、ファシズム期イタリア各地の公共彫刻を数多く制作しながらも、その活動の全貌が従来検討されてこなかったフィレンツェ出身の彫刻家コッラード・ヴィーニ(1888-1956年)の郵政庁舎・聖堂・噴水・墓地その他公共建築を飾る作品群のカタログ・レゾネの作成と、その前段階としての準備的研究によって構成される。本研究遂行のため、平成26年度と27年度には春期と夏期の二回、また28年度には5月から1月までサバティカル取得による長期海外出張を利用して調査研究を実施した。 準備的研究として、平成27年度に『五浦論叢』(茨城大学五浦美術文化研究所紀要)第22号に論文「コッラード・ヴィーニの公共彫刻-モンテカティーニ・テルメおよびテルニの作例について」を掲載した。この中では、中部イタリア・トスカーナ州の保養地モンテカティーニ・テルメのテットゥッチョ浴場ファサードを飾る四体の女性擬人像制作の経緯と図像の検討、中部イタリア・ウンブリア州テルニの大聖堂ファサードを飾る八体の聖人像および大聖堂広場の噴水彫刻《ネーラ河とヴェリーノ河》制作の経緯と図像の検討を行った。 研究の総決算として、最終年度である平成28年度に、ヴィーニの全公共彫刻のカタログ・レゾネ(「コッラード・ヴィーニの公共彫刻-全作品カタログ」)を『五浦論叢』第23号に掲載した。さらにこの全作品カタログに加筆修正し補注を加えたイタリア語版カタログを作成し、平成29年11月刊行予定の『五浦論叢』第24号に投稿中である(「(Le sculture pubbliche di Corrado Vigni -catalogo ragionato))。 これらの成果により、従来体系的に考察されることのなかったヴィーニの公共彫刻が初めて編年的に網羅され、豊富な図版資料とともに公刊され、ファシズム期の具象彫刻モニュメントの歴史的理解に不可欠の資料を提供できた。
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