研究課題/領域番号 |
26370131
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
栗田 秀法 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (10367675)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プッサン / 風景画 / アポロ / ダフネ / エミール・エブレオ / ペネイオス |
研究実績の概要 |
今年度は、5月にフランスを訪れ、ルーヴル美術館で開催された「プッサンと神」展を詳細に実見調査するとともに、ルーヴル美術館資料室にて関連資料を収集することができた。また、次年度招聘予定のプッサン研究者(ハイデルベルク大学)のもとを訪れ、意見交換とともに次年度の打合せを行った。また、7月には日仏美術学会において「プッサン晩年の風景画における語りと寓意」と題して《ダフネに恋するアポロ》(1664、ルーヴル美術館)についての研究発表を行った。その概要は次の通りである。 プッサンの《ダフネに恋するアポロ》は、描かれた場面が伝統的な図像類型に分類できない点が特異で、この作品の真のテーマを解き明かすべく数多くの説が提示されてきたにもかかわらず未だ決定的な解釈には至っていないが、ルネサンスにおけるギリシア・ローマ神話の自然哲学的な解釈の伝統との関係を改めて問い直すことで新たな解釈の可能性を探った。具体的には、「熱と湿気」のテーマが主題となっているとする従来の説に改めて注目し、プッサンに着想を与えた重要な関連テクストとしてエミール・エブレオの『愛の哲学』(1535)の「第二の対話」におけるアポロとダフネの寓話の意味を説明する一節に新たに注意を促した。結論的に言うと、本作品では「大地を流れる河から発する大地の自然の湿気の表象」(邦訳165頁)としてのペネイオス河と太陽神アポロの対比こそがおそらくは眼目となっているのであり、その対比にクピドとダフネの対比が重ね合されているのだと理解される。さらにエブレオのテクストでは、月桂樹と名声のテーマが語られていることに加え、メルクリウスがアポロの矢筒から矢を抜き取るモティーフにも言及があり、画家はここで少なくともアポロとダフネの物語を借りて世界の基本的要素の循環のテーマと不朽の芸術家の名声のテーマを織り込んでいる可能性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定した海外調査を行い詳細な作品の実見調査、資料収集ができたことに加え、次年度の海外のプッサン研究者の招聘計画も具体化することもできた。 また、ゴンブリッチが明らかにした《オリオンとディアナのいる風景》(1658、メトロポリタン美術館)とルネサンスにおけるギリシア・ローマ神話の自然哲学的な解釈の伝統との関係が《ダフネに恋するアポロ》においても別の形で言える可能性を明らかにできたことは、プッサン作品を西欧近世の「文芸共和国」における制作と受容のトポスの中に位置付けようとする本研究の目的の実現のための大きな一歩を記したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も海外調査と資料収集を継続し、本研究を遂行するなかで明確化したプッサンの晩年の風景画を理解するための視座をいっそう強固にしていきたい。 昨年度に口頭発表した研究成果については、《バッコスの誕生》《四季》についても視野に入れつつさらに問題を掘り下げ、論文として公刊していきたい。 さらに、研究最終年度として予定通り海外からプッサン研究者を招聘し、本研究テーマと密接に関わる国際セミナーを開催する。本研究の成果を深め、今後の展望への新たな視座を得るための機会としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
額は比較的少額であり、次年度物品費に有効に使うために未使用とした。
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次年度使用額の使用計画 |
最新の研究書の購入のために物品費の一部として有効に活用したい。
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