17世紀フランス美術の理想的モデルであった古代美術・ラファエッロ・プッサンという「三者」間の評価のバランスと揺らぎは、様々な価値観の推移と連動しているはずである。本研究は、17世紀「古典主義」時代の美術を取り巻く制度や理念上での革新を、模範となる「芸術家」像の受容史から読みとくことを目的とし、1年度は、テキスト分析と「三者」およびその対置的モデルとなるカラヴァッジョ主義の図像流通の調査を実施した。ルイ13世時代の芸術政策との関連から、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールとプッサンの関係を検討し、「古典主義」が内包する多様性についての成果を発表した。2年度は、テキスト分析を継続しつつ、プッサンがルイ13世のために制作した作品について、ラファエッロおよび古代との関係を含めた分析を行なって成果を発表し、彼のパリ滞在がフランスの画家や愛好家に与えた影響を調査した。また「三者」の対置モデルとしてのルーベンス、ヴェネツィア派の作品調査を実施し、王立絵画彫刻アカデミーでの「色彩論争」について検討した。3年度はプッサンのパリ滞在以降に当地で活躍した画家達 (アティシスムの画家、シャルル・ル・ブラン、ピエール・ミニャールら) に見る「三者」の受容と評価のあり方を分析し、その成果を含む論文および著作を刊行した。最終年度は、時間軸と発言者の立場に沿って「三者」評価の力関係を総合的に再構築することを試み、特にアカデミー講演会録およびアンドレ・フェリビアン、ロジェ・ド・ピールの言説を中心に分析し、価値観の推移を跡づけた。さらにアカデミー講演会で論争を呼んだプッサンの作品について新知見を含めた成果を発表した。 期間全体を通じて、理想的モデルとされた「三者」の力関係の揺らぎに注目するという本研究の着眼点により、17世紀フランス「古典主義」美術が内包する近代に通じる価値観の振幅と多様性の一端を示すことができた。
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