研究課題/領域番号 |
26370142
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
近藤 秀實 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (90225623)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 沈銓 / 曾鯨 / 呉彬 / 黄檗宗 / 山水画 |
研究実績の概要 |
本研究は、江戸時代、鎖国制度の下、日本に齎された中国明清画の実体を明らかにし、その日本画界に与えた影響を探るものである。 中国本土にて、江戸時代に日本に齎された中国絵画の本質を探る為に、その不足部分を補う爲、積極的に現地調査を行なう事を主とし、平成27年度では、国内に於ける文献調査の他、中国での実地調査を2度実施した。 第一回目の調査では、頼山陽、田能村竹田らに影響を与えた安徽派画家に関する現地調査を目的に中国・安徽省に於いて、安徽派の始祖であるところの文人画家・蕭雲従の足跡を辿る。まずは、太平山水詩画に関し、資料の収集と李白記念館での調査を実施した。次いで、太平山水画に詳しい、蕪湖師範大学・汪教授を訪問し、情報交換を行った。また、蕭雲従縁の地など同行していただき、教授の計らいで通常外国人が調査する事が難しい閉架書庫内の資料も特別に閲覧する事が出来た。山水画に描かれる山々もそれぞれ調査地として訪問し、縁の資料や文献の調査を並行して進めた、中でも中国画の材料である宣紙と宣筆について、工房にて作業課程を見る事ができた。 繁昌に移ってからは沈銓研究会に参加し、近年の研究動向について伺い知る事が出来たほか、研究用の資料として、図書などを譲り受ける事ができた。また、会には沈銓の子孫に当る所の沈美玉氏が参加しており、沈銓の故居の現状に関して重要な情報を得る事が出来た。 第二回の調査では、天津博物館にて、新安派蕭雲從の山水図巻3点と、沈銓の師の胡ビ、江戸時代に田能村竹田や頼山陽等の人気を勝ち得た施溥の作品の特別観覧を行い、併せて明末清初の作品展を調査した。また、山東省博物館・山東省済南市博物館にて沈銓の作品に関する調査を行い、青島市では、髙鳳翰の作品調査等も実施した。明清絵画の作品に関し、極めて重要な調査となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年・本年の調査に於いては、南京で活躍した画家、曾鯨と呉彬を中心とする作品の調査を主とする計画であった。双方共に、江戸時代長崎で興った新しい画風の絵画を誘発した画家として重要な存在である。曾鯨の画風を基に派生した波臣派の一人、曾鯨の直接の弟子でもあった張琦の作品「費隠通容像」は、黄檗宗隠元の来日と共に日本に齎され、日本に於ける「黄檗画像」形成の基となった。いわば、曾鯨は、「黄檗画像」の生みの親である。又、曾鯨の作品の本質を検証する事により、曾鯨の肖像画風に西洋の影響があるという説に、反証を提示するものである。併せて、当時の西洋画風に影響されたとされる他の画家の作品群を調査し、曾鯨の画風との差異や近似点を洗い出す。 進捗としては、上記二回の中国調査を実施し、山水図を中心に沈栓の足跡と明清画の伝来起源を辿る調査については当初の計画の通り進行しているといえ、全体の調査状況としても概ね順調である。ただし、特別観覧の許諾については、我が国との国際情勢に伴い、若干取りにくくなっているため、年度内のスケジュールにはやや遅れが生じている。今年度では、江戸時代の日本でも高い評価を得ていた画家、王建章・大鵬・趙珣・陳曾則等に関し、日本側で残された作品や記録を検証し、中国側の資料との補強調査を国内(長崎、及び、京都宇治萬福寺等)にて実施する予定であったが、前述の中国現地調査予定がずれに伴い、書籍による基礎を調査を実施するに留まった。
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今後の研究の推進方策 |
完成年度である為、二年間では実現出来なかった中国での調査を補完し、同時に、日本国内に所蔵される明清絵画の調査も総合的に行なう。 江戸時代、三百年間の間に、かなり厖大な数の中国画が流入したと思われるが、上記で示した画家以外に、林良、張路、呉偉、鄭眞頁仙、蒋嵩等、中国本土では一時異端視された画家群の作品も積極的に輸入されていることから、これらの作品調査も中国本土での欠落部分を補う意味でも極めて重要である。一方、日本に存在する沈銓絵画、及び来舶画人の絵画の中には、かなりの数の偽作絵画が、彼等の名を騙って混在する可能性が高い。来舶画人の作品と日本人南蘋派画家の作品調査を同時進行し、その中での共通点と差異を検証することが必要である。この結果、総体的に、沈銓絵画がどのように、江戸時代の日本絵画界に影響を及ぼしたかが、明らかにする。 具体的には、H27年度と同じく中国への実地調査を行い、画譜」類に見られる沈銓及び南蘋派画家の作品群の確認も行なう。中国から齎された「画譜」「画論」の影響範囲を検証する。立体的に当時の日本画界と中国との関係を明らかにする。今年度については、特別観覧許諾に取得の取得に時間がかかったため、次年度については、今年度調査に協力いただいた大学教授らにすでに依頼を出しており、円滑に調査が行えるよう進めている。また江戸時代、日本に於ける中国明清画受容の問題が、解明されることを目的に、H27年度に実施することが出来なかった。日本側での調査を実施し、残された作品や記録を検証し、中国側の資料との総合を行なう。それに伴い、日本では、長崎、及び、京都宇治萬福寺等での調査が予定される。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度調査での実績を基に中国国内の博物館・美術館への調査依頼をしたが、山東省での美術館・博物館の特別資料閲覧に関する調査許可がなかなかおりず、夏以降H27年度調査が全体的に後ろ倒しとなった。当初は2月末までに今年度の調査が終了している予定であったが、実際には終了したのが3月18日であり、止むを得ず、次年度使用額として、残金をH28年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額及び、H28年度配分額については、調査旅費として使用する。最終年度となることから、中国への実地調査(南京)や主に今年度未実施であった国内実地調査(京都・長崎)を実施し、これまでの調査を補完する。 その他、現地にて、画譜など研究用資料の購入費として使用する。
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