本年度は中国現地調査と国内調査を実施し、曜変の再現に取り組んでいる陶芸家らと学術交流を行い、一種類の釉薬で、焼成の仕方(還元冷却の方法やフッ素ガスの化学作用)により、斑文や虹彩(光彩)を出すことが可能であることが改めて確認できた。また、杭州出土と伝えられる新たな曜変天目資料も確認することができ、南宋宮廷に曜変をはじめ珍しい天目がもたらされていた様相がうかがえた。 本研究全体の成果としては、一つは南宋宮廷では様々な天目の優品がもたらされており、日本での曜変や油滴天目の評価は、南宋宮廷の価値観を継承したものである可能性が高いことが分かった点である。二つは、露胎部分に漆を塗ったり、文様装飾のある覆輪が施されたりと宮廷ならではの特殊な状況も見られ、伝世品だけでは分からない、当時の宮廷での天目のあり方をうかがうことができた点である。三つは、杭州出土の曜変天目の顕微観察を通して、曜変の斑文が破裂痕であるなどの顕微構造が確認できた点である。そして四つは、最大の成果ともいえるが、藤田美術館所蔵の国宝曜変天目に世界で初めて科学分析調査を行った点である。これにより、1)釉薬には鉄やマンガン以外に基本的に重金属類が用いられていない点、2)覆輪の材質が銀である点などが新たに判明し、また曜変の虹彩の構造メカニズムに関する新知見も得られた。五つは、曜変や油滴天目の再現に取り組んでいる陶芸家らとの学術交流を通して、その制作技法の謎の解明に多くの有益な示唆が得られた点である。 なお、本研究は、NHKのETV特集「曜変~陶工・魔性の輝きに挑む~」(2016年6月11日放送)で大きく紹介され、社会的にも注目された。また、論文での成果発表の他、講演会やレクチャーなどを通して、研究成果を一般に紹介することにも努めた。
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