研究課題/領域番号 |
26370155
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研究機関 | 九州歴史資料館 |
研究代表者 |
井形 進 九州歴史資料館, その他部局等, 研究員 (60543684)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薩摩塔 / 宋風獅子 / 山口県長門市 / 三隅熊野権現社 |
研究実績の概要 |
27年度は、所在が確認されている中国系彫刻について、薩摩塔に刻まれた尊像を中心としつつ調査を継続した。今回の研究は、対外交流の最大の窓口であった、九州に所在する中国系彫刻について輪郭を把握し、その背景や、九州の、美術史、文化史上での役割について、考察を深めてゆくための基礎を築くことを目的としている。とはいえ位置づけをより明瞭にするためには、九州以外に伝わる中国系彫刻の調査や研究も必要である。そのため昨年度は、九州内での調査と並行して、併せての考察が必要だと目される九州外の作例の調査も進めた。最も意義深かったのは、山口県長門市の三隅熊野権現社に伝わる宋風獅子の調査であった。本作例も存在は知られていたが、彫刻史の研究者に精査されたことはなく、画像や調書などの基礎的な資料は調っていなかった。それを調えることができたことは有意義だったが、さらに、本作例は、今後九州に偏在する宋風獅子の各作例の、絶対年代を考えてゆく上で、建仁元年(1201)に宗像大社に施入された作例と並んで、重要な存在であると考えることができるに至ったことは、きわめて大きな成果であった。三隅熊野権現社の宋風獅子は、宋風獅子の相対年代的に見て、その掉尾を飾る存在であろうと見ていた。今回調査に際して、長門市指定文化財となった時点での史料の中に、「応永年間に温州の慶載が奉納したもの」との記載を見つけることができた。出典は未確認であるが、これにより応永年間(1394-1427)という、宋風獅子の下限となる年代を押さえることが、可能となりそうである。また、温州はおそらく中国の温州であろうし、慶載は中国人であろう。最近注目している、中国系彫刻の移入と受容の問題を考える上でも、要となる作例だと言える。さらに、調査を進める中で、韓半島の作例や状況も参照しつつ研究を進める必要が改めて実感されたため、韓国の仏像や石塔の検討も始めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度の調査については、当初予定していたよりも、件数としては多いとは言えないが、着実に進んでいる。また、調査の過程で、予期していなかった貴重な情報が得られるなどのこともあり、総じて見ると、おおむね順調に進展していると言ってよいと考える。予定していた、中国での状況を窺うための現地調査は行えなかったが、28年度には当初小規模な研究会を開催する予定であったところ、かねてより情報交換を行っていた寧波の研究者も招いて、中国系彫刻、とくに薩摩塔を一つの焦点とする、シンポジウムを開催することとなったため、これにより、むしろやみくもに現地に行くよりは、多くの有益な情報を得ることができそうだと感じている。
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今後の研究の推進方策 |
現在所在が確認されている、あるいは所在情報を得ている中国系彫刻の、悉皆調査は不可能だと判断されるために、重要な作例に絞って調査を継続する。調査に際しては当初の予定通り、28年度には自然科学的な手法を用いた調査も並行して行ってゆく。7月には国際シンポジウムを開催するため、そこでの議論を踏まえつつ、報告書の内容を充実させてゆきたい。それに資するために、中国ないしは韓国での調査も、行う予定である。また、薩摩塔についてのパネル展示も予定している。これにより、重要でありながら未だ認知度が低い薩摩塔について、より広くその存在や魅力を知っていただくように努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度は、予定していたより調査件数が少なくなったこと、とくに中国への調査旅行を行わなかったこと、機器類の購入を必要とする調査を先送りしたこと、そして、28年度に開催することになった国際シンポジウムのために、支出を抑えたことが、次年度使用額が生じた主たる背景である。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度は、輸送費が必要となる館内における自然科学的調査を積極的に行うこと、27年度に果たせなかった中国における調査、ないしは韓国における調査など国外における調査を確実に行うこと、機器類の購入を必要とする調査を行うこと、国際シンポジウムにおいて、旅費や謝金、資料の印刷等に使用すること、そして充実した報告書を作成することにより、適正に使用してゆく予定である。
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