研究課題/領域番号 |
26370155
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研究機関 | 九州歴史資料館 |
研究代表者 |
井形 進 九州歴史資料館, 学芸調査室, 研究員(移行) (60543684)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 薩摩塔 / 宋風獅子 / 温州慶載 / 国際シンポジウム |
研究実績の概要 |
28年度の前半は、所在が確認されている中国系彫刻について、薩摩塔に刻まれた尊像を中心としつつ調査を継続した。また並行して、7月16日に当館と久山町が主催した、中国と日本の、美術史、文献史学、考古学の研究者による国際シンポジウム「中世の福岡平野から見る東アジア―首羅山と造形遺品を中心に―」および、翌17日のエクスカーションの準備を進め、両日ともに盛況裏におえることができた。担当した発表は「薩摩塔と宋風獅子」であり、これら、同じく九州に偏在する両者の分布に、わずかな相違が見受けられることについては、性格や機能の違いによる、信仰主体のずれによることを指摘した。シンポジウムにおいては、司会兼パネリストを務めた。内容はむしろ、課題の方が目立つものとなったが、今後の研究推進の方向を見定める上で、有意義なものであったことは間違いないと考えている。なお、シンポジウムと連動して、薩摩塔と塔に刻まれた尊像を紹介する、パネル展示も開催している。28年度の後半は、これまでの調査で確認された作例、また、これまで調査を進めてきた中で、新たに所在情報が寄せられた作例について、館に備えられた自然科学的機器も用いながら、調査を行う予定であったものの、所蔵者の都合でそれが延期となった重要作例があり、それらの調査と報告書の作成については、29年度に行うこととした。28年度後半は調査を継続することとし、27年度末に調査を行っていた、山口県長門市の三隅熊野権現社の宋風獅子についても、関連史料の調査を始めとする補足調査を行った上で、館の論集に論文を執筆した。本作例については伝承の通り、応永年間(1394-1427)に、中国温州の慶載が奉納したものだと考えられる。薩摩塔に比べると最近はやや低調であった、宋風獅子の研究を前進させ、その様式変遷や年代幅について考える上での、重要な基準を提示できたものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
28年度については、作品調査に加えて国際シンポジウムの開催を核としながら、精力的に調査研究を進めた。とはいえ少数ながら、予定していた精査が延期となった作例があり、それが今回の研究に欠くべからざる重要作例であったことから、精査と報告書の作成を延期せざるを得なくなった。このため、やや遅れていると評せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
調査が延期となった作品については、福岡県文化財保護課や市町村教育委員会と連携しながら、所蔵者と再度調整の上で、調査を行ってゆく予定である。これをうけて、報告書を作成し刊行する。報告書の内容の充実に資するために、必要に応じて国内の調査のみならず、中国と韓国における調査も行ってゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
7月16日に開催したシンポジウムには、中国寧波大学の劉恒武氏を招いた。当初、氏には旅費および謝金を支払う予定であったが、旅費を辞退されたために、その分使用額が抑えられた。また、少数ながら調査が延期となった作品があり、それらが今回の研究において欠くべからざる存在であったために、調査と報告書の作成を、次年度に延期する必要が生じた。これらのことが、次年度使用額が生じた主たる理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
延期となった調査と報告書の作成を確実に行う。また報告書の内容を充実させるために、国内のみならず中国や韓国における調査にも努め、そして報告書作成にあたっては、国内のものにとどまらず、中国や韓国の刊行物も積極的に整備して参照する。報告書については、作品に関する情報量を可能な限り大きなものとするため、オールカラーで作成したい。
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