研究課題/領域番号 |
26370157
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森田 直子 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (40295118)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 観相学 / 絵物語 |
研究実績の概要 |
本研究は、観相学という知の体系が絵物語という新しいメディアの語りのしくみを生み出すまでの、とりわけ18世紀の実践的・理論的展開を解明することを最終的な目標としている。 そのために、26年度はまず、18世紀までの複数の芸術・学芸ジャンル―修辞学(弁論法)、演劇、絵画、言語論等―における顔への関心の重なり合いを歴史的に解明することを試みた。具体的には、演説上の技術としての表情、俳優の演技における表情、絵画における人物の表情の重要性を考えさせる気運や、普遍言語としてのパントマイムへの関心が同時進行していた事実を確認し、R.テプフェールの絵物語のなかの表現と関連づけた。その成果は現在執筆中の、テプフェールに関するモノグラフィーのなかの一章にまとめた。 また、テプフェールにおけるシャルル・ルブラン『感情(情念)表現に関する講演』(1668)の影響をあきらかにするにあたっては、当初の計画をやや修正し、テプフェールの絵物語において顕著な役割を果たす身体の動きの表現に注目した。乗り物や動物の疾走の表現とともに、しばしば「映画以前の映画的技法」と表現されがちなテプフェールのスピーディな運動表現は、作者にとってはむしろ西洋絵画の伝統をうけつぐ「情念」の表現であったと考えられる。登場人物の表情やしぐさが、時に内心(情念)を表現し、時に情念をカムフラージュするしくみを具体的に示すことで、絵物語を芸術史のなかに正確に位置づけるべきことを提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R.テプフェールの絵物語(版画物語)の原理の形成に、17・18世紀ヨーロッパの美術や演劇の理論および修辞学経由でとりいれられた観相学がどのように反映したか、という問題の検証はほぼ終わっており、研究計画の3分の1ほどに相当する。ただし1年目の研究成果の刊行が編集作業の遅れにより2年目にずれこむ予定である。
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今後の研究の推進方策 |
絵物語の展開をより長期的な観点から観相学の歴史に位置づけるために、アカデミー絵画から派生したサブジャンルである「カリカチュア」の表現方法と、18世紀の美術と演劇における表情やしぐさへの関心がどのように関連していたかを、ウィリアム・ホガース、トマス・ローランドソン、ルイ・レオポルド・ボワリー、カルル・ヴェルネ等からの影響を中心に考察する。2015年1月のシャルリ・エブト襲撃事件以来、学界でも諷刺画に関する議論が活発となっている。テプフェールの絵物語を特徴づけるユーモアと諷刺とが、諷刺画(カリカチュア)の歴史と諷刺(サタイア)文学の系譜のなかで占める位置を解明することの重要性が高まった。この点に関する研究協力者と打ち合わせの準備をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目の成果発表の編集作業の過程で、出版社側に遅れが出たことに対応するため、研究協力者との打ち合わせの旅程を当初予定していた時期に組むことができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初26年度に後半に予定していた打ち合わせを27年度夏までに実現する予定である。そのための経費を27年度請求額とあわせて使用する計画である。
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