研究課題/領域番号 |
26370163
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
越智 和弘 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (60121381)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヴァンピュロトイティス・インフェルナリス / 脳内思考経路 / 官能的思索 / 脱肉体化 / 超自我の変容 |
研究実績の概要 |
研究初年度は、基盤研究(C)「性の解放と資本主義-労働力の均質化をめぐる表象文化論的考察」(平成23~25年度、課題番号:23520166)で得られた成果を継承するかたちで進められた。具体的には、前掲基盤研究最終年度の平成25年3月に、本研究の支柱をなすドイツの二機関から招聘が得られたことにより、現地に赴いて予備的調査に着手できたことが、本研究を当初より大きく前倒して進められることにつながった。 前基盤研究終盤で実現できた予備調査を受け、平成26年8月には両機関を再訪し、そこで本格的な資料収集に着手できたことが、本年度最大の研究実績だといえる。本研究の支柱をなすそれら二機関は、脱肉体化された現代における芸術の可能性を探るうえでまたとない理論を提示したヴィレム・フルッサーの原稿資料等を、現在一手に保管しているベルリン芸術大学のフルッサー・アルヒーフが一つ。二つ目は、60年代以降研究代表者が着目してきた女性アーティストの中で、肉体不在の美学を表現するうえで抜きん出た存在であるレベッカ・ホルンが、ドイツ・ミュンスターにあるナチ時代のツヴィンガー牢獄を舞台に創造し、今も保存されているインスタレーション『反時計回りのコンサート』とその関係資料を保管しているミュンスター市立美術館である。 フルッサーについては、本研究にとり重要な著作を『ヴァンピュロトイティス・インフェルナリス』、『歴史後の世界』、『悪魔の歴史』の3点と設定し、それぞれを3年計画に振り分けたことを受け、本年度のアルヒーフ訪問においては、『ヴァンピュロトイティス』に関するフルッサー直筆原稿など、1次文献の収集を推し進めた。ミュンスター市立美術館においては、予想をはるかに上回るホルンとツヴィンガー牢獄の資料が体系的に保存されていることが判明したため、本年度は、『反時計回りのコンサート』成立にいたる資料を中心に収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題である脱肉体化時代の官能的思索の可能性を解明するうえで、前基盤研究終盤において、本研究につながる予備的調査をドイツで実施することができたため、本年度は、フルッサー・アルヒーフとミュンスターのツヴィンガー牢獄ならびにミュンスター市美術館において、予想を上まわるペースで研究を推し進めることができた。 初年度最大の成果としてあげられるのは、現在フルッサー・アルヒーフが刊行を予定している”Flusseriana”(フルッサー用語辞典)への執筆を打診されたことである。それを受け、”Sinnlichkeit”(官能性)の項を執筆することを受諾し、先方に送った原稿が、アルヒーフ館長ツィーリンスキー教授を始めとする編集陣から賞賛を受け査読を通過、掲載が決定された。さらに初年度の研究課題として新たに設定した『ヴァンピュロトイティス・インフェルナリス』について、以下の二論文「脱肉体化時代の官能的思索-ヴィレム・フルッサー論考(1)」、”Vampyroteuthis in der desexualisierten Welt -Studie zu Vilem Flusser (1)-”にその成果を発表した。とりわけドイツ語で書いた二つ目の論文は、刊行後、フルッサー・アルヒーフに寄贈され、これまでにない非西欧人の目からみたきわめて斬新な研究論文であるとの好評を頂いた。 平成26年8月に改めてドイツ・ミュンスターを訪れ、本格的にツヴィンガー牢獄とそこに設置されたレベッカ・ホルンのインスタレーション『反時計回りのコンサート』を直接目の当たりできたことは、作品にとり夏の季節が重要な意味をもつことから有益であった。同時に、「不在の美学」を体現する作品が呼び覚ます「牢獄」の過去をめぐるュンスター市立美術館が管理する膨大な資料に出会え、その調査に着手できたこともまた大きな成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた成果をもとに、平成27年度においては、引き続きベルリン芸術大学のヴィレム・フルッサー・アーカイヴとミュンスター市立美術館を訪問し、その膨大な資料収集に努める。具体的には、 1.フルッサー・アルヒーフにおいては、次年度の研究対処として予定されているフルッサーの著作『歴史後の世界』に関係する資料を中心に調査を進める。 2.ミュンスター市立美術館においては、初年度は現地が洪水に見舞われツヴィンガー牢獄の電源が切れたことにより完全な作動ができなかったインスタレーションの動く姿を見るとともに、ツヴィンガー牢獄が経てきた数奇な運命のなかでもとりわけ、ナチスの時代から再洗礼派の時代に関し美術館が所有する資料を調査収集する。 さらに本研究の成果は、平成27年4月から名古屋大学文学研究科の依頼を受け実施することとなった講義「ヴィレム・フルッサー概論」において、学生にフィードバックすると同時に、引き続き研究初年度同様、「脱肉体化時代の官能的思索」をテーマに、少なくとも2編の論文として発表する。
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