研究課題/領域番号 |
26370164
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山口 庸子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (00273201)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エドワード・ゴードン・クレイグ / 文楽 / モダニズム / ジャポニズム / 人形劇 / 演劇 / 舞踊 / 身体文化 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、人形劇のルネサンスに大きな功績があったエドワード・ゴードン・クレの人形劇研究および人形劇台本の文献調査を行うこと、およびフランス国立図書館を中心にしたクレイグ関係資料の調査を行い、クレイグの人形劇に関する思想を明らかにすることが目的であった。これらの調査によって、クレイグとモダニズムの人形劇の関係についての数多くの資料を閲覧することができた。 なかでも特筆すべきは、クレイグが日本の人形劇に大きな関心を持っていたことが分かってきたことである。研究計画で述べたように、クレイグと日本の人形劇との関係は、先行研究の中で断片的に触れられているものの、まとまった研究は全く行われておらず、この点について資料の有無を確認するのも本研究の目的の一つであった。筆者は、クレイグのノートのなかに、江戸時代、松好斎半兵衛によって発行された『戯場楽屋図会拾遺』のトレース画が含まれていることに気づいた。このトレース画については、これまで論じられたことがなく、筆者による研究が初めてである。 さらにこの図像の伝播の過程をたどる中で、日米欧(主に英・独)にまたがるモダニズムとジャポニズムの複雑なネットワークが浮かび上がってきた。「モダニズムの人形劇ルネサンス」は、クレイグ独りの発想、もしくはクレイグと他の特定の芸術家の間の影響関係に限られるものではなく、このような複雑な人的及び言説のネットワークを背景として理解されねばならない。以上のような成果を論文「エドワード・ゴードン・クレイグと文楽―『楽屋図会拾遺』の図像の伝播と日米欧モダニズムの国際的ネットワーク」としてまとめ、演劇学会紀要『演劇学論集』59号(2015年3月)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記のように、海外での資料調査の結果、これまで知られていなかった新資料を確認することができた。またその分析から、文楽が20世紀初頭の英・独・米などで注目を集めており、それが、人形劇のルネサンスに功績のあったエドワード・ゴードン・クレイグに影響を与えていたことなど、新しい事実を原資料を用いて実証的に証明することができたからである。当初の予定では、平成28年度に本研究の成果を論文として纏める予定であったが、本研究の初年度から論文を学術誌に発表することができたことは、大きな成果であり、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年度の成果を踏まえ、クレイグと日本との関係について引き続き調査を進めるとともに、クレイグとドイツ語圏の人形劇についても調査する予定である。但し、クレイグと日本の人形劇に関する資料が、当初の予想をはるかに上回る質と量であったため、まずこの点について論文をまとめ、その後、クレイグとドイツ語圏の人形劇についての研究を進める予定である。 平成27年度二月に行った調査を基に、エドワード・ゴードン・クレイグと文楽との影響関係、およびそれに関係する日本の知識人について論文をまとめ、現在、学術誌に投稿中である。また、7月末から8月末にかけて、フランス国立図書館で三度目の調査を行い、さらに当初の予定通りチューリヒのマリオネット劇場についての調査も進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年7月末から8月にかけて、世界最大のクレイグ・コレクションを持つフランス国立図書館で資料を閲覧した。その中にはこれまで知られていなかった未公刊資料も多数含まれ、質量とも予想をはるかに上回る資料群であったため、平成27年2月に、経費を前倒し請求して、追加調査を行った。しかし、見込んでいた資料複写費等が当初の予想を下回ったため、差額が生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度も、引き続き、フランス国立図書館での資料調査、およびチューリヒ・マリオネット劇場を中心とした調査を行う予定であり、差額分はその調査費に組み込みたいと考えている。
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