本研究は,冷戦期のアメリカにおいて,日本の古美術がどのように受容されたのかを明らかにし,日米両国の視点から,対米,対日の文化政策について考察するものである。主にシアトル美術館日本古美術展(1949年),②サンフランシスコ日本古美術展(1951年),③アメリカ巡回日本古美術展(1953年)の3件の展覧会を取り上げる。 28年度は,上記3件の展覧会とそれらに関連する事項について,国立国会図書館,早稲田大学図書館等で調査をおこない,これまでの資料と合わせて総合的に分析した。分析を進める中で,戦前,日本の古美術はアメリカでどのように呈示されたのか,について調査し,冷戦期の古美術展と比較する必要性を確認した。そこで,1936年にボストン美術館で開催された日本古美術展について,調査をおこなった。その成果は,「ボストン日本古美術展(1936年)と矢代幸雄の日本美術論」『秋田公立美術大学研究紀要』第4号(平成29年3月)に発表した。ここでは,冷戦期の日本古美術受容に顕著な特徴として,日本美術と中国美術の差別化があげられるが,この視点は,ボストンの日本古美術展に際し,美術史家の矢代幸雄が『ニューヨーク・タイムズ』に寄稿した英文記事に,すでに認められることを指摘した。またこの記事の前後に矢代がおこなった講演内容を調査した結果,『ニューヨーク・タイムズ』の記事が,矢代がその後,日本美術論を形成する上で,重要な位置を占めることを確認した。この調査研究をふまえた上で,冷戦期の日米の美術交流を捉え直す必要がある。
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