研究課題/領域番号 |
26370166
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研究機関 | 金沢美術工芸大学 |
研究代表者 |
高橋 治希 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 准教授 (10464554)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 園林 / インスタレーション / 中国古典庭園 / 中国 |
研究実績の概要 |
1年目は主に現地調査や文献調査を通じて、研究課題の着想の源泉となった「東洋における古典園林と現代美術におけるインスタレーション表現の共通点について、分類整理するための資料収集」 に主眼が置かれている。そのため、平成26年9月15日~9月28日の日程で、中国蘇州市における宋代から明代の文人園林調査(拙政園、獅子林、環秀山荘、網師園、滄浪亭、怡園、芸園、留園)および無錫市にある(蠡園、寄暢園)の調査、北京市798芸術特区の調査を行うと共に、文献調査を進めることで中国の古典園林とその背景にある思想と表現が、インスタレーションの表現手法と重なる多くの点について発見された。
また、現地での資料収集として、古典園林に加え、伝統的な空間芸術に関わるもの、文人画に関わるものに焦点を当て、「時空中的芸術」、「中国園林芸術概論」、中国における造園書「園冶」、園林と書画との関係を明確にするため、主に上記園林の造園と時期を同じくする明代の画派「杰門」等の書籍を10冊程度を購入し、その分析を行った。 日本国内においても京都大徳寺(大仙院、高桐院)東京後楽園の造形要素を調査し、中国文人園林と比較した場合の具体的な共通点と差異についての資料の作成を行った。
以上の活動を通じて、古典園林とは道教思想等に基づいた現実と切り離された別天地であり、その空間構成や植生、詩歌等を通して、そこに住む家族の未来と生き方の理想を情緒的に表現したものであるという考えを得た。その中でインスタレーションとの関係について、「見立て」がその「素材同士の関係性」に当たるなど様々な共通点を明確にある一方で、「方位」や「素材の擬人化」といった比較的園林特有の造形要素の確認もできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
9月の中国での現地調査と資料収集において、宋代から明代の園林の思想とその表現方法の特徴、およびインスタレーション作品への応用について、写真、ビデオ映像、調書作成、関係書籍の収集が順調に行われ、多くのデータ記録を得ることができた。 特に日本国内の事前調査や文献では見出しにくい、園林自体の構造としての「正」明暗等変化から生まれる「変」といったことに対して、インスタレーションの視点から、事物同士の関係や空間とのバランスを含めて多彩な要素を発見できたことは成果として大きいと考えている。 また現地協力者である清華大学美術学院の潘毅群准教授(環境彫刻)からの助言等も得ることができた。 一方で日本国内の園林調査と作家調査が予定よりも幾分遅れている状況にある。そうした状況を鑑み、再度本年度の活動の中心と捉えていた中国での古典園林調査が順調に行えたことを自己評価した時、達成度においてはおおむね順調に進展していると考えてよいと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
26年度に得た現地調査データおよび文献調査に基づいて、主にその具体的実証研究と発表を行う。 「日本と中国の伝統的空間美とインスタレーションへの応用」をテーマとして、伝統的な古典園林の空間自体が春夏秋冬、昼夜を問わず鑑賞者の情感を引き出す構造を有していることを応用して、展覧会(越後妻有アートトリエンナーレ)では、古民家1階を昼、2階を夜と設定して、陶磁器で作られた植生の中を鑑賞者が園遊的に移動しながら体験するインスタレーション作品を制作し、7月26日から9月13日の日程で広く展示公開する。 また、金沢美術工芸大学と中国清華大学美術学院の交流展覧会を活用して、ここまでの進捗状況の紹介として「中国古典的園林のインスタレーション的要素」についてのパネル展示、及びガラスを水に例えた上で、陶磁器で作られた草花を園林的に設置する手法で作品制作を行い、8月20日から8月30日の日程で合わせて展示発表する。 さらに園林調査や作家インタビュー調査においても日中両国で継続的に進める。対象地及び対象者は26年度の現地調査や文献調査で得られた内容を再度検討することで、より効果的な対象を選定し直す。(26年度の現地調査で中国杭州において、具体的に「庭」というタイトルで作品制作を長年行っているインスタレーション作家が存在するなど、再検討することで、より確信に触れる調査が可能と考えている。) 以上の研究活動から充分な資料作成、分析を行うことで、28年度に予定している研究の成果を2ヶ国語で出版することに繋げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度の調査研究において、中国においてはおおむね研究計画通りに実施できたが、日本国内の調査においては東京、京都のみとなり、その他地域での実施ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究は調査研究と実践研究の2つから成り立っていることを踏まえ、以下の2点で使用したい。 ①昨年実施できなかった日本国内調査(高松、山口方面等)の調査を行うことで、日本における園林の受容について、インスタレーション的視点からの分析により客観的にを持たせる。 ②本年は調査研究の継続に加え、特に前年の調査を踏まえた上での実践的な制作研究及び発表を行う事になっている。現在予定通り越後妻有アートトリエンナーレと清華大学美術学院との交流展を活用した制作研究に取り組んでいるが、特に越後妻有アートトリエンナーレにおいて、古典園林の春夏秋冬及び昼夜が混在している造形要素を一つの古民家内で表現する制作費等が予定金額より増加せざるを得ないため、その費用にも充てたいと考えている。
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