研究課題/領域番号 |
26370166
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研究機関 | 金沢美術工芸大学 |
研究代表者 |
高橋 治希 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 准教授 (10464554)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 園林 / インスタレーション |
研究実績の概要 |
研究最終年度の取りまとめとして報告書の作成と共に、これまでの調査成果を踏まえた作品2点を制作した。1点目は作品名「順雨」と名付け、東京芸術大学陳列館で行われた日中の共同展「新技芸」展において、園林を手のひらサイズに縮尺して制作する手法を実験的に行い、来日した清華大学美術学院の教員等から、「小中見大」等に見られる中国の園林構成との関連性や比較等の助言を得た。2点目点は「順雨庭園」というタイトルで、ガラスを雨粒に見立て、さらにその雨粒を植物の種に見立てて、ガラスの種から植物が芽を出し、多数の植物が展示会場となった和室全体に、原っぱのように広がる作品を個展形式で京都の古民家「松雲荘」で発表した。 さらに、昨年度中国杭州でインタビュー調査をした管懐浜氏の博士論文等から、本研究に関係する先行研究を改めて調査すると共に、日本作家として時折作品に「たゆたう庭」等、「庭」を作品タイトルにつける作家、山本基氏のインタビューを行い、中国人、日本人双方からインスタレーション作家の庭に対する美意識の背景を探った。 以上の活動から、作品の大小に関わらず、園林的空間構成をインスタレーション作品に十分機能させる分析と、その実践を作品として帰結することを行い一定の成果を得たが、一方で園林の思想の根底にある「時間の経過による園林の細やかな変化に、鑑賞者自身が人生観を融合させて、自身の有り様や生き方を問う」ことといった、園林全体の大きなコンセプトに対し、現代美術の文脈としてのインスタレーションとの共通性と差異を明確にするために、改めて西洋美術におけるインスタレーションの派生について、文献等による精緻な調査をする必要性と、それをより大きな作品で実践的に証明する必要性が明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで2回に分けて中国(北京・蘇州・上海・杭州)で、園林および作家へのインタビュー調査を行い、日本国内でも、同様の園林および作家インタビュー調査に加え、実践的作品制作と発表、中国清華大学美術学院との交流展による成果発表等を行ってきた。本年度は、研究最終年度に作成を予定している日中2カ国語による報告書の作成もはじめ、日中で収集した文献調査も加えて作成に取りかかっており、これまで中国でのインタビュー内容の詳細なテープ起こし等の作業を残してはいるものの、現在日本語で7割程度の執筆を終えている。 しかしその執筆中に、園林の特性として園林は「変化し続けるものであること」、「園林はそのもの自体が表現されるものではなく、鑑賞者の人生観と融合されてこそ表現として成り立つ」など、これまで行ってきた園林的要素を選び取り、それを再構成することでは作品として成り立たないことに気付き、総合的に園林的要素と人の関わり合いを、より園林的な大きさでインスタレーション作品に結びつける大掛かりな実践的研究が必要性が不可欠になった。その矢先、その課題に最も明快に取り組める展覧会での発表の機会(平成29年6月~7月開催、北アルプス国際芸術祭)に参加できることになり、現在建物全体を園林に見立て、鑑賞者が園林的要素を堪能しながら回遊し、空間全体に自身の心情を重ね合わせる表現を研究している。その成果を国際展である本展で発表することで、広く伝えるとともに、報告書に広く鑑賞者の反応等を記載することで、本研究の実践部分に客観性をもった評価が与えられると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
北アルプス国際芸術祭で、「高瀬川庭園」と題した作品を制作発表することを通じて、本研究の実践的部分の集大成を行う。本作品は実際に築70年程度の茶室のような古民家を回遊式園林に見立て、押し入れ等を園林思想の洞門に例えたり、階段を築山としたり、室内全体に磁器による蔦植物の連関を古民家付近に流れる川に見立てた作品である。磁器の蔦で作られた川はその形を上流から下流までに実際に自生する植物31種類から成り、その構図も園林の設計図ともいえる水墨画から、郭熈の「三遠の法」を取り入れ、下流から上流に回遊しながら鑑賞者の視点は、平遠、深遠、高遠の3つの視点を同時に得ながらも、次第にその視点は天井付近の上流部に引き込まれるように配置する。また、建物入り口は「薄明」のような明け方をイメージした薄暗い状態にし、中国語で「陽陰和階」(光と影の調和)と記した扁額も掲示し、園林の光と影の調和も含めて表現する。 また、研究最終年度として日中2カ国語による報告書を、北アルプス国際芸術祭で得られた評価や反応を組み込みながら作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来昨年度に報告書を日中2カ国語で発行する予定だったが、本研究で行った調査結果に基づいた実践制作を、より踏み込んだ形で、波及効果も期待される国際展(北アルプス国際芸術祭2017年6月開催)で発表し、その評価や反応を報告書に掲載するために1年間研究期間を延長した。そのため特に報告書作成に関わる翻訳や印刷費、また打ち合わせにかかる旅費等を次年度に持ち越ししたために、次年度に使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年は助成金を報告書を発行するための翻訳料及び印刷代、参考書籍等に充てると共に、研究をより深めるために生じた、北アルプス国際芸術祭における実践制作で、建物内を園林に見立てるために必要となる制作材料費の一部としても使用したい。
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